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SG会田アンダースロー(ワインドアップ)日本には15兆円程度も財政支出を恒常的に拡大できる余地がある

シンカー:ネットの資金需要(企業貯蓄率と財政収支の和)をGDP比0%に誘導している現行の財政政策のスタンスは過度に緊縮的で、内需低迷とデフレから完全脱却できない原因となっている。まずは、ネットの資金需要をGDP比3%程度に誘導する財政拡大で、名目GDP・マネーが拡大する力を取り戻すことが望ましい。言い換えれば、日本経済には、恒常的に財政支出をGDP比3%程度も拡大する余地があると言える。恒常的な水準であり、一度増やした財政支出は政治的に削減するのは困難であるという議論とは無縁だ。現代貨幣理論(MMT)を巡る議論がある。MMTに対する誤解は、景気の悪い時に財政を拡大してしまうと、景気が良くなっても縮小できず、インフレがコントロールできなくなるという方向感に対する指摘だ。MMTを解釈すると、そのような方向感の議論ではなく、内国債の形で金融政策の支援があれば、安定するネットの資金需要の水準は、経済学の主流派が考えるより大きいはずだという主張だと言える。財政赤字に対する過度な恐怖感により抑制されてきたネットの資金需要を金利の高騰を問題にすることなく拡大できるので、その分だけ恒常的に財政支出を拡大する余地があるという結論になる。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

日本では、1990年代から企業貯蓄率は恒常的なプラスの異常な状態となっており、企業のデレバレッジや弱いリスクテイク力、そしてリストラが、企業と家計の資金の連鎖からドロップアウトしてしまう過剰貯蓄として、総需要を破壊する力となり、内需低迷とデフレの長期化の原因になっていると考えられる。

恒常的なプラスとなっている企業貯蓄率(デレバレッジ)が表す企業の支出の弱さに対して、マイナス(赤字)である財政収支が相殺している程度(財政赤字を過度に懸念する政策)で政府の支出は過小で、企業貯蓄率と財政収支の和(ネットの国内資金需要、マイナスが拡大)がほぼゼロと、国内の資金需要・総需要を生み出す力、資金が循環し貨幣経済とマネーが拡大する力が喪失してしまっている。

ネットの資金需要が消滅した状況は最悪だ。

企業の総需要を破壊する力を政府が補いきれていないことを意味し、名目GDP・マネーの縮小とデフレ圧力がかかり続けてしまうからだ。

その悪い状態が長期化したため、デフレ期待が経済・マーケットにロックインしてしまい、「日本化」が完成してしまった。

企業貯蓄率がプラスの時は、財政政策を拡大して、ネットの資金需要を十分な大きさに誘導し、名目GDP・マネーの拡大とインフレ圧力を生み出す必要がある。

その結果、企業が投資のリターンを得やすい環境が整えば、投資が刺激され、企業貯蓄率がマイナスとなりデフレ完全脱却に結びつく。

まずは、ネットの資金需要をGDP比3%(15兆円)程度に誘導する財政拡大で、名目GDP・マネーが拡大する力を取り戻すことが望ましい。

ネットの資金需要をGDP比0%に誘導している現行の財政政策のスタンスは過度に緊縮的で、内需低迷とデフレから完全脱却できない原因となっている。

企業貯蓄率の動きは大きかったが、どの位置にいても、財政収支の動きでネットの資金需要を一定に保ってきた実績がある。

財政の景気自動安定化装置や景気対策の効果で、日本経済には企業貯蓄率と財政収支の方向感の安定性は備わっているようだ。

問題はそのような方向感ではなく、両者がバランスするネットの資金需要としての水準感である。

バランスするネットの資金需要を、GDP比0%で安定させてしまうのではなく、3%程度に拡大する必要があるという水準感が問題だ。

2%の物価上昇が達成できるほど名目GDP・マネーの拡大を強くするには、ネットの資金需要は最低でも3%程度は必要であろう。

言い換えれば、日本経済には、恒常的に財政支出をGDP比3%程度も拡大する余地があると言える。

恒常的な水準であり、一度増やした財政支出は政治的に削減するのは困難であるという議論とは無縁だ。

現代貨幣理論(MMT)を巡る議論がある。

「自国の通貨を発行して借金ができる国は財政赤字を増やしても、インフレが問題化しない限り心配ない」というのが大まかな主張のようだ。

MMTに対する誤解は、景気の悪い時に財政を拡大してしまうと、景気が良くなっても縮小できず、インフレがコントロールできなくなるという方向感に対する指摘だ。

MMTを解釈すると、そのような方向感の議論ではなく、内国債の形で金融政策の支援があれば、安定するネットの資金需要の水準は、経済学の主流派が考えるより大きいはずだという主張だと言える。

財政赤字に対する過度な恐怖感により抑制されてきたネットの資金需要を金利の高騰を問題にすることなく拡大できるので、その分だけ恒常的に財政支出を拡大する余地があるという結論になる。

恒常的な支出としては、教育投資、少子化対策、インフレ整備、科学技術の振興など、恒常的な支出の増加先はたくさんある。

夢のある科学技術の振興の例としては、国際リニアコライダーの東北への誘致など、恒常的にアイディアは尽きないだろう。

また、民間の需要を喚起して、新たなイノベーションが起きる環境を整えるため、減税も有効だろう。

日本は単年度で税収中立という縛りがあるが、米国のようにまず減税で景気を刺激し、10年単位で税収中立にするという考え方への刷新も必要だろう。

図)ネットの資金需要

ネットの資金需要
(画像=日銀、総務省、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司