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Amazonの第二本社撤回でNYCは何かを失ったのか

意地悪で押しの強いニューヨーカーたちに付き合うよりも、第二本社計画を撤回することをAmazonは選んだ。そして事の推移を見守っていた人たちは、ニューヨーク市(そして地元の政治家)は抵抗したから損をしているとほのめかしている。

彼らは間違っている。

ニューヨーク市の現在の失業者率は4.3%で、国平均の3.9%より高いが、それでもおかしい数字ではない。Amazonの2万5000もの雇用(高給の仕事だ)を生み出すという約束は、この失業率の数字を少なくするかもしれない。しかしそうした創出される職にニューヨークやクイーンズの住民が就けるというはっきりとした保証はない。そうした職が、他の地域からやってくるAmazon社員に流れるかもしれないことを示す動きもある。

Amazonが第二本社をニューヨークに置くということが発表される前からAmazon社員はクイーンズ地区の不動産を購入し始めていた。

ニューヨークにオフィスタワーを建設するためにAmazon(世界で最も時価総額の大きな企業の一つだ)に何十億ドルもの税制上の優遇措置を与えないなんてニューヨーカーは馬鹿だ、という反応は、この国が市民の利益より企業の利益を優先していることの表れだ。

商業をAmazonに引き渡すことなしにニューヨークが地元経済を浮揚させるためにできることはある。クイーンズにオフィスを構えるためのインセンティブはニューヨークにすでにあるのだ。

さらに重要なことに、クイーンズの住人はAmazonがやってくることで周辺が様変わりするのではないかというもっともな懸念を抱いていた。

地元の政治家が誇張しない、というわけではない。ニューヨークの政治は汚職、収賄、ゆすり、おかしな駆け引き(私は交渉の場にはいなかった)と全く無関係ではない。しかし、どちらの側にも“過ちがあった”とは言えるだろう。

長期的にはAmazonはニューヨークの経済に恩恵をもたらしていただろう。そしてAmazonの幹部は地元住民の懸念に耳を傾け、成功例となっていたかもしれない。

というのも、Amazonがニューヨークの経済にとって有益になる確固とした理由があるからだ。第二本社をニューヨークに置くというニュースが発表されたあと、Noah SmithはBloombergに以下のように書いている。

Amazonはロングアイランドシティに設けるオフィスの資産税を払うだろう。また、法人税も払う。これは利益に基づいてではなく、資本ベースでだ。従業員、特に高給取りの従業員はニューヨーク市に個人の所得税も払う。もちろんそうした税金のいくらかは、市がAmazonに約束したインセンティブと相殺される。インセンティブは最大20億ドルで、Amazonが何人雇うか、いくつ建物を建設するかによって変わる。そうしたインセンティブは、企業の投資をひきつけるのには役に立たない。しかし長期的には、ニューヨーク市が第二本社から得る税収はおそらくコストをかなり上回るものとなるだろう。

しかも、ここには、周辺のビジネスや不動産価値へのAmazon効果は含まれていない。他のテクノロジー企業はAmazonがいるためにクイーンズに移ってきたがるだろう。従業員はラテからMRIに至るまであらゆるものを購入するのにお金を使う。第二本社が地元に及ぼす経済効果は年間170億ドルとの予測もある。その数字を半分に割ったとしても、そして推測が楽観的だったとしてもクイーンズの経済効果は最初の費用をすぐに取り返すだろう。これは、たとえば悪のささやきがあったウィスコンシン州のFoxconn工場とはまったく異なる(編集部注:Foxconnはトランプ大統領との話し合いの結果、工場計画を復活させた)。

そうした恩恵は本当だろう。しかし、雇用や支出が地元経済、住宅、交通、そして新住民の需要のある行政サービスに及ぼす影響を考えたとき、ニューヨークのような市にとってその恩恵がどれだけのものになるのか、を測るのは難しい。

シアトルやサンフランシスコが直面している住宅危機はまさしく、テクノロジー企業が急激に成長するとき(そこに富が伴うとき)どうあって欲しいのか行政が注意しなければならないことを示すものだ。

いずれにせよ、米国の都市はテック企業により急激に様変わりしている。テクノロジーが国の経済をデジタルを持てるものと持たざるものに二分したように、テクノロジー企業は持てる都市と持たざる都市を作り出している。

ブルッキングス研究所のMark MuroとRobert MaximはUS NewsとWorld Reportで下記のように指摘している。

学者は、熟練労働者への偏見もあり、テックが都市のヒエラルキーを変えるかもしれないと何年も疑いの目を向けてきた。10年以上前、研究者のPaul Beaudry、Mark Doms、Ethan G. Lewisは、パーソナルコンピューターを最も初期に素早く導入した都市では、相対的賃金が最も早く増加するとの考えを示した。いまや、我々が行なった調査も含め、デジタルテクノロジーが都市経済の成長に大きく貢献し、デジタルテクノロジーの大きなインパクトによりボストンやサンフランシスコのようなスーパースター都市が他都市を大きく引き離しているというさらなる証拠がある。

プリンストンのエコノミストElisa Giannoneは最近、1980年からの都市における賃金の変化をまとめて発表した。そこには、熟練したテック労働者とテック産業集合化の面で恩恵が増大したことが反映されている。同様に、ブルッキングスの研究でもかなりデジタル化された都市、往々にして沿岸のテックハブである数少ない都市はさらにデジタルになり、成長や収入でも抜きん出ていることがわかった。我々が“全てのデジタル化”と呼ぶものは、アメリカの経済情勢の不均一をさらに悪化させている。

ナッシュビルにオペレーション・センターを設けるというAmazonの判断は地元にはるかにポジティブな結果をもたらす、と評価するのは簡単だ。

しかしアメリカの都市をミスコンテストのようなスタイルで競争させ、都市が数十億ドル企業をなだめるのに懸命になるのは、実に不快だ。

地元コミュニティの怒りをかうことなく都市でいかに発展するかという例としては、Googleがいかにニューヨークで発展しているかが良い参考例になる。Googleはニューヨークに1万4000もの雇用をさらに生み出そうとしていて、ウェストサイドのキャンパス拡張に10億ドルを投じることも約束した。

見たところ、Googleはニューヨークの、あるいは他都市からやってくる人材争奪で存在感を増している。それは、ニューヨークが戦略上重要だからだ。Amazonのニューヨーク本社を撤回するという決定はそうした人材へのアクセスを失うだけでなく、他のテック企業がニューヨークに進出する機会を逸することになり、またはローカル企業にとっては優勢を維持することを意味する。

なので、ニューヨークの地元テックコミュニティがクイーンズに次のAmazonをつくることで2万5000もの雇用を提供し、それを達成するためにコミュニティとうまくやっていくことを祈るばかりだ。

最近、デモクラシーは神を金に取って変えた宗教のようだ。Amazonの追い帰しは、ニューヨークが少なくとも市民の責任を方程式のどこかに盛り込んだことを表している。

イメージクレジット: David Ryder / Getty Images

原文へ 翻訳:Mizoguchi)