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加藤浩次はロバート・レッドフォードになれるか? “吉本騒動”がハリウッドに学べること

連日、メディアを賑わせている吉本興業の「闇営業」問題。そもそもの発端は、宮迫博之さんをはじめとする芸人らが反社会勢力からお金を受け取っていた点にあったが、その後の宮迫さんと田村亮さん、及び岡本昭彦社長の記者会見で、パワハラや口頭による契約など、いまの時代にそぐわない同社の体制や経営実態が明らかになった。

一連の会見の数日前には、SMAPの元メンバーを番組に出演させないよう、ジャニーズ事務所がテレビ局に圧力をかけていた疑いがあるとして公正取引委員会が注意したという報道も大きな話題になった。

いま、日本の芸能事務所の不健全さが次々と浮き彫りになっている。

こうした騒動に対し、日本の芸能人やタレントにも「組合が必要なのでは?」と指摘するのは、長年ハリウッドをはじめとするアメリカのエンタテインメント業界の取材を続けてきた、朝日新聞記者の藤えりかさんだ。

日本の芸能界が、“ムラ社会”や“ファミリー”を超えるためのヒントを藤さんに聞いた。

事務所が強い日本と、プロデューサーが強いアメリカ

吉本もジャニーズも、その事務所の権力の大きさが指摘されている。日本ならではのこのパワーバランスについて、藤さんはアメリカと比較しながらこう語る。

《アメリカはとにかくプレーヤーが多いので一概には言えませんが、『エージェント』と呼ばれるのが日本の芸能事務所にあたるもので、『パブリシスト』がマネージャー的な存在として、タレントをフォローします。 アメリカは契約社会ですから、当然それぞれの間にきちんとした契約書を交わしますし、時には弁護士を介することもあります。 エージェントと俳優やタレントはあくまで対等で、こんなに事務所の力が強いのは日本の特徴といえるでしょう。

一方、アメリカではプロデューサーが強い立場になりやすいという側面があります。要するにお金を集められる人が権力を持つんですね。長年の性暴力問題がついにMeTooの流れで告発され、失脚した大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインのように、お金が集まるところにハラスメントが生まれやすい構造は、日本と変わらないともいえます。》

俳優の権利を守る「組合」は日本にも必要なのでは?

狭き門をくぐって仕事を勝ち取らなくてはならない業界において、どこかしらに権力が生じることはやむをえない部分もある。しかし、そこに「逃げ場や選択肢があることが大事なのではないか?」 と藤さんは指摘する。

《アメリカには俳優など出演者の権利を守るための組合「SAG-AFTRA」があります。ハリウッド草創期の1933年に設立され、現在は大物からエキストラまで約16万人が加盟しているそうです。労働時間や報酬など待遇改善を請け負ってくれるため、俳優にとっては、エージェント以外に自分を守ってくれる強力な存在になります。 入会するのに3000ドルという安くはない金額がかかりますし、この組合が権力化してしまっているところもある。

ギャラの男女格差の是正などまだまだ課題もありますし、組合さえあれば解決というわけではもちろんありません。 それでもやっぱり、ないよりはあった方がいいと思いますし、日本の芸能界にもこうした組織が必要なのではないかと感じます。》

「干されても、活躍できる場をつくる」芸能界そのものの構造改革が必要

さらに藤さんは、一連の吉本の問題について「松本人志さんの『松本興業を作る』発言しかり、吉本の“中で”組織をどう改善するかが論点になっているが、中で解決するんじゃなくて業界全体を変えるべきではないか」と提案する。

《アメリカには、ハリウッド以外の“場”をつくってきた歴史があります。たとえハリウッドで干されても、そこで終わりにならない。

その代表が、1978年に俳優ロバート・レッドフォードがユタ州で立ち上げたサンダンス映画祭です。大手の意向に左右されずに作品を作りパフォーマンスを発揮できる場をつくろうとして始まったもので、サンダンスの作品などを放送する24時間ケーブルテレビまで立ち上げました。サンダンスは、いまやアカデミー賞候補作を輩出する一大映画祭として、世界の注目を集めています。

テレビにしてみても、元々多チャンネルであるところに、HBOのような新興ケーブルテレビやNetflixのようなストリーミングサービスなど、様々な場が生まれ続けています。俳優が活躍できる、ハリウッド以外の場所の選択肢を増やす動きは、日本の芸能界も学ぶところが多いだろうと思います。》

 

長年に渡り、ハリウッドの動向を追ってきた藤さんが身をもって感じるのは「権力は永遠じゃない」ということだという。

「いま権力を握っている人が、10年後もそうとは限らない。絶対逆らえないと思っている会長や社長だって、本当はこの先どうなるかわからないんです」

藤さんが注目するのは、今回の騒動を機に、会社への不信感を募らせ、吉本を離れる可能性について公言した加藤浩次さんだ。エールにも似たこんな言葉を語った。

《吉本を離れられるにしても、残られるにしても、加藤さんほどの方なら、できることがたくさんあるように思います。個人的には加藤さんにこそ、かつてのロバート・レッドフォードのように、日本の芸能界において『別の選択肢をつくる』ことに取り組んで欲しいですね。成功している人が中心になってこそ、できることだと思うから。》