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鉄板「相続税対策」のココに注意!【アパート経営編】

【特集】富裕層の「資産防衛術」
相続対策で失敗するヒト、成功するヒト
  1. 【第1回】日本人は「富裕層キャリア」が短い? 相続対策リテラシーの現状
  2. 【第2回】相続のプロが明かす「今後は注意したい節税対策」
  3. 【第3回】「良い相続対策」「悪い相続対策」の見分け方
  4. 【第4回】相続対策に失敗した"元富裕層"の悲惨な末路
  5. 【第5回】鉄板「相続対策」のココに注意!【アパート経営編】
  6. 【第6回】鉄板「相続対策」のココに注意!【資産管理会社設立編】
  7. 【第7回】富裕層の相続・事業承継を成功させる3つのポイント

資産が無ければ無いで悩むが、増えたら増えたで今度は「築いた資産をいかにして守るか」といった「持つ者ならではの悩み」を抱えるようになる。例えば、こんなことを耳にしたことはないだろうか。

「日本は外国と違って相続税が高いから資産を残すことが難しい」
「相続を3回繰り返せば一族の資産は全部無くなってしまう」

これに対して「相続・事業承継が上手くいくかどうかは戦略次第。相続の度に資産が減ってしまうのは方法が悪い」と指摘するのが、K’sプライベートコンサルティング代表取締役で公認会計士、税理士、中業企業診断士の金井義家氏だ。本特集では「富裕層の『資産防衛術』」と題して、富裕層の相続・事業承継における資産の残し方を金井氏から聞き出す。特集第5回では、鉄板相続税対策「アパート経営、建築」の注意点について。(聞き手:ZUU online編集部 副編集長 押田裕太)※本インタビューは2018年11月16日に実施されました

金井氏,富裕層
金井 義家(かない よしいえ)氏
K’sプライベートコンサルティング 代表取締役。公認会計士、税理士、中小企業診断士。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。北海道拓殖銀行・東京都庁・新日本監査法人・税理士法人タクトコンサルティングを経て、平成26年に株式会社K’sプライベートコンサルティングを設立。セールスに紐づかない、専門家の視点からの正しい情報を毎月一回、東京都内で無料セミナーを開催して発信。https://ksp-consulting.co.jp/ ※画像をクリックするとAmazonへ飛びます

目次

  1. アパート建築による相続税対策の一般的なリスク
    1. 全く借金が無かった「富裕層」の事例
    2. 相続・事業承継コンサルティングの典型パターン
  2. アパート経営環境の今後の見通し

アパート建築による相続税対策の一般的なリスク

全く借金が無かった「富裕層」の事例

――アパート建築による相続税対策の一般的な(経営)リスクについて第三回でお話しいただきました。経営面で具体的に注意すべき点はどのようなポイントでしょうか?

今回も実際にあった事例から入っていきましょう。私のところへ個別相談に来たBさんの話です。Bさんは実は数年前にも私のところへ相談にしに来たのですが結局契約をせず、数年後に再び訪れたというパターンです。実はこのようなパターンも相当数います。

この数年間の間に何があったのかを説明していきます。私のところへ最初に来た時、Bさんの父親は存命であり、5つの不動産を有していて、かつ借入金の全くない「富裕層」でした。不動産のうち1つは自宅、1つは賃貸アパート、残りの3つが駐車場でした。ところが私のところへ最初の相談に来た直後に父親が、その1年後に母親が死去したそうです。

兄弟は5つの不動産を全て、長男のBさんが相続することで納得し、現預金をそれぞれ少し相続することで遺産分割協議にハンコを押してくれたそうです。相続税の申告は地方銀行から紹介された「資産税に強い」と称する税理士法人に依頼し、報酬もリーズナブルだったので決めたそうです。またこの税理士法人から母親の「二次相続対策」として、3つの駐車場のうち特に立地の良い2つの土地に賃貸アパートを建てることを強く勧められたそうです。

結果的に、この税理士法人から紹介された大手ハウスメーカーで2億円かけて2棟を建築し、資金は税理士を紹介してくれた地方銀行から30年ローンで調達したそうです。郊外なので経営に不安があったが「サブリース」があるから安心だと思ったようです(「サブリース」の仕組みについては後述)。しかし結果的にアパートが完成する前に母親は死去し、相続税の節税には全くならなかったとのことでした。

ところが暫くして、まずはこの「資産税に強い」はずの税理士法人のやった相続税申告に致命的なミスが発覚しました。しかも他の税理士にセカンドオピニオンを依頼した結果判明したということではなく、いわば「ド素人」であるBさんが自ら気がついて指摘したのです。税理士法人は謝罪し、自ら税務署へ手続して、計算ミスによる過払い分は還付になったそうです。ところがこれがきっかけで、この税理士法人に不信感を抱いたBさんが、自ら勉強して良く調べたところ、一次相続の遺産分割のやり方次第では二次相続の相続税がもっと減らせたということが発覚しました。

確かに一次相続時点で母親の健康状態が良好で、二次相続が何十年後かわからないという状態ならともかく、私のところへ最初に相談に来た時点で両親共に余命宣告をされているというのを私も聞いていました。また兄弟仲も良好で、どんな遺産分割協議でもハンコをもらえるという状態だったのですから、それは二次相続の相続税も視野に入れた適切なアドバイスはBさんとしては欲しかったところでしょう。これについてBさんはクレームを税理士法人に入れたようですが、税理士法人は、依頼業務の範囲外ということではねつけたそうです。

ところが問題はこれだけで済みませんでした。2億円の借り入れをして建築した2つの賃貸アパートが、築3年も経たないうちに業績不振に陥ったのです。一般的なサブリースの契約内容について簡単に説明すると、アパート建築をするハウスメーカーのグループ会社(サブリース会社)が完成したアパートを一括借り上げし(実際の家賃収入に関係なく)、超長期に渡り毎月定額の家賃(サブリース家賃)をアパートオーナーに払うというもので、「30年家賃保証」「35年一括借り上げ」で安全・安心などと謳われています。しかし、実際は安全・安心などということは全くありません。30年・35年が経過する前にサブリース家賃を引き下げられたり、契約を解除されたりすることが良く起こります。

念のために言っておきますが、このことは契約書に明記されており、法的にも何ら問題はありません。しかし、アパートオーナーから見れば「安全・安心などと謳っておきながら、全然話が違うじゃないか」ということになりがちです。

結果としてアパートオーナーと、ハウスメーカーとの間でのトラブルが続発し、一部では集団訴訟にまで発展しています。あまりにもトラブルが多いため、既にこの「サブリース」は数年前から社会問題化しており、国土交通省も何とかして規制をしようとしているのですが、なかなか進んでいないというのが実態です。

Bさんは建築後に自力で勉強をし、契約書を熟読するなどして、このサブリース家賃が引き下げられ可能性があることや契約が解除になることがあること、それが原因で一部で集団訴訟が発生していること、国土交通省が問題視し規制に乗り出していることなどを知りました。

本来は、そういうことは意思決定前に調べておくべきことです。心配になったBさんは実際にどのくらいの家賃収入が上がっているかを調べたところ、築3年も経っていないにもかかわらず早くも業績不振に陥っており、家賃収入は当初予定を大きく下回っていることが発覚しました。もっとも今のところBさんには約束のサブリース家賃が支払われていますから、直接的な影響は出ていません。しかし、このような状況ではいずれサブリース家賃の引き下げを言ってくるのではないかと不安に思うようになったそうです。

案の定、築3年が経ったところで、サブリース会社は家賃の引き下げを打診してきました。Bさんは話が違うと激怒し、大手ハウスメーカーの支店に怒鳴り込んだところ、とりあえずその場はおさまったそうです。しかしこれがきっかけで大手ハウスメーカーに対する不信感を高めただけでなく、この先、どこかでサブリース家賃が引き下げられる可能性が高いと確信するようになったようです。そしてサブリース家賃が引き下げられれば地方銀行への借入金返済が出来なくなるのではないかと悩むようになり、再び私のところへ来たというわけです。

相続・事業承継コンサルティングの典型パターン

この話を聞いてどう思われたでしょうか。実はこれが今巷に出回っている「相続・事業承継コンサルティング」と称するものの典型的パターンです。仕組みを説明していきましょう。 

まず話のポイントは、地方銀行と大手ハウスメーカーと税理士法人は最初から「仲間」であるということです。まず父親が死亡したという情報が相続手続き等により真っ先に入る地方銀行が、頼みもしていないのにBさんに「資産税に強い」という税理士法人を紹介してくることから始まります。この税理士法人は「資産税に強い」ということは全くなく、相続税の申告書作成作業は何とかできるという程度のレベルであることも珍しくありません。

ではなぜここが地方銀行に情報を回してもらえるかというと、地方銀行から見て「便利である」ということが理由です。この税理士法人は格安で相続税申告を引き受けるのですが、重要なのは、申告作業を通じて、地方銀行でさえ入手困難なBさんの父親の資産についての具体的かつ詳細な情報が入ることです。そうすると父親の相続税の申告書作成作業はさっさと終わらせたところで、依頼してもいない「二次相続の試算」を実施します。

ここで、「一次相続ではこんなに相続税が発生するが、二次相続でもこのくらいの相続税が発生する、対策は生前にやっておくべきものです」といったように不安を煽ります。専門家の言うことだと思って信頼しているBさんが具体的に何をするべきか質問をすると、借金をしてアパートを建てる「相続税の節税策」を勧めてきます。そして名のあるハウスメーカーを紹介されます。

実際に会うと「サブリースがあるから安心だ」と大手ハウスメーカーは強調し、税理士法人は「これを建てれば二次相続の相続税がこんなに安くなる」と全力で後押ししてきます。銀行は前述の地方銀行に声がかかり、あなたのような優良顧客に是非とも融資をしたいと丁重にもてなされます。

結果的にBさんは、怪しいとは思いながらも、地方銀行や、税理士法人のいうことだから問題ないだろうと思ってアパートを建てます。大手ハウスメーカーは建築で利益を上げ、地方銀行は2億円の融資ができます。さらに税理士法人には相続税申告報酬の他、大手ハウスメーカーからのキックバック(相場は建築費の3%)が入っている可能性が高いです。そして取引に満足した地方銀行は、次に誰かが相続手続きに来ると、この「資産税に強い」という税理士法人をまた勧めてくるということになります。これが典型的な「相続・事業承継コンサルティング」と称するものの仕組みであるとしてBさんに一通り説明したところ、Bさんの表情がみるみるうちに変わるのがわかりました。

数年間も会っていなかった私が、あたかも隣で見てきたかのように克明にこれまでにBさんに起こったことを解説したことに驚いたのかもしれません。でもほとんどがこのような話なのだから超能力でも何でもありません。「はめられた。畜生」と顔に書いてありましたが、今から彼らを訴えることも難しいでしょう。地方銀行はお金を貸しただけだし、大手ハウスメーカーもアパートは注文通り建築したし、税理士法人もミスはあったものの自力で取り返して、きちんと申告をしたからです。全てはBさんの自己責任にしかならないのです。裁判所も警察も助けてくれません。事前に自分の力で情報を収集し、意思決定をしたら、その後の結果は全て自分で責任をとらなくてはならないということをBさんはやっと知ることができたわけですが、あまりにも遅すぎました。

「金井さん。何とかなりませんか」と言われました。しかしここまで病気が進行していると、ちょっと無理かなと思いました。5つの不動産のうち、最も優良な2つの不動産が「サブリース」という悪性腫瘍に侵されているようなものだからです。残りの3つの不動産は、実はさほど資産価値ありません。そしてもちろん、このまま続けていってもBさんが懸念しているようにサブリース家賃はどこかで引き下げられて銀行への借入返済が不能になることは間違いありません。この先27年持ちこたえるような状況ではないのです。とにかくサブリースの手じまいをしなくてはなりません。つまりこの2つの不動産を、外科医が悪性腫瘍に侵された臓器を摘出手術するように売るしかないと考えました。しかしこの2つの不動産を売っても、数千万円単位の借入金が残るだろうなと思いました。とにかく2つの不動産を売ったらいくらになるかを知らなくてはなりません。

ここでまた不動産会社の出番です。しかし不動産会社というのは海千山千で、一見の顧客の問題を採算度外視で解決するということはまずありません。何らかのベネフィットが見込まれなければ、ここでもいいように言いくるめられて安く売らされて終わりということになります。Bさんのリテラシーでは不動産会社にきちんと仕事をさせることはまず不可能と感じたので、私が信頼する不動産会社を紹介することにしました。

もっともここで勘違いしていただきたくないのは、私は中立性を維持するために、紹介料・手数料・キックバックの類の授受は一切行っていないということです。私は私と付き合いがあり、かつ能力のある信頼する不動産会社のみを紹介しています。彼らも私からBさんのような相談を押し付けられては困ると内心思うかもしれませんが、私から紹介される仕事は仲介手数料の按分やキックバックが必要ではない分、利益率が2倍とも言えます。ここを頑張っておけば次にまた何かあるかもしれないと思ってくれれば、やるだけのことをやってくれる可能性は高いです。

数日後、紹介した不動産会社より連絡がありました。結論は思った通りでした。今からサブリースをやっている2つの土地・建物を売っても1.5億円にもならず、確実に5,000万円以上、最大で1億円近い借入金が残るということです。残り3つの不動産の資産価値は5000万円いくかいかないかですから、事実上の債務超過です。これではBさんは事実上の破綻ということになるわけですが、借入金残高以上で売って欲しいという顧客の要望には応えようがないからお断りしたということでした。

これも考えてみれば凄い話です。ちょっと前まで相続税を払わなくてはいけないほどの富裕層であったBさんが2つのアパートを建てただけで債務超過です。しかも2億円で3年前に建てた築浅のアパートが、土地も入れて1億5000万円でも売れないのです。いうなれば最初から1億円未満の価値しかない建物を2億円で建てさせられたとしか言いようがないのですが、このような話は枚挙に暇がありません。

ちなみにBさんが破綻しても誰も困りません。大手ハウスメーカーは建築で利益を得たり、サブリース家賃を引き下げたり、契約を解除することは違法ではありません。税理士法人も申告報酬と、場合によっては大手ハウスメーカーからのキックバックが入ってホクホクです。地方銀行は残り3つの不動産と、連帯保証人になっているBさんと妻の個人財産まで全て差し押さえれば、破綻するまでの金利を含めればマイナスになることはありません。つまり大手ハウスメーカーも税理士法人も地方銀行も一儲けして、Bさんだけが破滅という結果です。これが今ある「相続・事業承継コンサルティング」とやらの現状です。特に今、オリンピック決定後の建築費高騰後にサブリースでアパートを建てた不動産オーナーの大半は壊滅に向かいつつあります。

私は「医者」としてBさんに上記の結論を率直に伝えました。あの時のBさんの苦渋と無念に満ちた表情は忘れられません。前回と違って私の意見を素直に受け入れたのは、彼が薄々感じていた結果と変わらなかったからでしょう。彼は自分のリテラシーの低さ、判断能力故に全てを失う結果となった自分の能力の無さを一生悔い続けることになります。これが高度成長期であれば会社経営の成功や地価上昇などで取り返すこともできたかもしれませんが、低成長時代の今は至難です。Bさんが失ったものは、恐らく2度と戻ってきません。その後、Bさんは妻に全てを伝えたところ、2人で働けば家計は何とかなると言ってくれたそうです。しかし遺産分割協議に快くハンコを押してくれた兄弟にはまだ伝えられていないといいます。ここまで病気が進行してしまうとどうにもならないのですが、医者として患者に治せないということを伝えるのはこんなにもつらいものかと思います。

アパート経営環境の今後の見通し

――アパート経営環境について、今後の見通しはどのようにお考えですか?

東京五輪開催が決定した後に建築した物件と決定前に建築した物件で別々に考えたほうが良いかもしれません。

建築費が暴騰したのは、東京五輪決定後です。決定後に建築した物件については、場所にもよりますが、多くの物件は時間が経つほど壊滅的な状況になっていくだろうというのが私の意見です。これから空室率が上昇し、家賃単価が下がっていって、どこかで力尽きるでしょう。もっとも既に地方・郊外から順番に、一部の例外を除いては壊滅しつつあります。かと言って、今から売却してもBさんのように借金が返済しきれないケースがほとんどです。東京五輪決定前に建てた方は、まだ建築費が安かったですから、堅実経営をしていけば地方・郊外でも逃げ切れる可能性はあると思います。

金井氏,富裕層
金井 義家(かない よしいえ)氏
K’sプライベートコンサルティング 代表取締役。公認会計士、税理士、中小企業診断士。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。北海道拓殖銀行・東京都庁・新日本監査法人・税理士法人タクトコンサルティングを経て、平成26年に株式会社K’sプライベートコンサルティングを設立。セールスに紐づかない、専門家の視点からの正しい情報を毎月一回、東京都内で無料セミナーを開催して発信。https://ksp-consulting.co.jp/ ※画像をクリックするとAmazonへ飛びます
【特集】富裕層の「資産防衛術」
相続対策で失敗するヒト、成功するヒト
  1. 【第1回】日本人は「富裕層キャリア」が短い? 相続対策リテラシーの現状
  2. 【第2回】相続のプロが明かす「今後は注意したい節税対策」
  3. 【第3回】「良い相続対策」「悪い相続対策」の見分け方
  4. 【第4回】相続対策に失敗した"元富裕層"の悲惨な末路
  5. 【第5回】鉄板「相続対策」のココに注意!【アパート経営編】
  6. 【第6回】鉄板「相続対策」のココに注意!【資産管理会社設立編】
  7. 【第7回】富裕層の相続・事業承継を成功させる3つのポイント