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超抜イエバエで世界のタンパク質危機を解決するムスカ、創業者が秘める熱い想い

ムスカは、2018年11月にTechCrunch Japanが開催したTechCrunch Tokyo 2018の「スタートアップバトル」で最優秀賞に輝いたスタートアップだ。スタートアップバトルは同イベントの目玉の1つで、設立3年未満、ローンチ1年未満の製品やサービスを持つスタートアップが競うピッチイベント。昨年も100社超がエントリーし、書類選考でファイナリスト20社を選出。そして、TechCrunch Tokyo 2018の初日のファーストラウンドで6社に絞り込まれ、2日のファイナルラウンドで最優秀賞が決まった。

TC Tokyoの最優秀賞に輝いたあともムスカは、2019年1月にデロイト トーマツ ベンチャーサポートと野村證券が開催した「Morning Pitch Special Edition 2019」でオーディエンス賞を獲得。そして、2月にICCパートナーズが開催した「ICCサミット FUKUOKA 2019 」の「REALTECH CATAPULT」で優勝した。そのほか各種メディアに何度も掲載されたので、知っている読者も多いことだろう。

怒濤の勢いで成長している感のあるムスカ。同社の現在、過去、未来について会長の串間充崇氏に話を聞いた。

ムスカ代表取締役会長の串間充崇氏

イエバエを使った肥料・飼料の生産システム

TechCrunch読者にはもうおなじみかもしれないが、まずはムスカという会社を紹介しておこう。同社は、イエバエを利用した肥料・飼料の生産プラントを手がける、2016年12月に設立されたスタートアップ。ネットサービスが全盛のスタートアップ業界では珍しい存在で、歴代スタートアップバトルの最優秀賞企業の中でもかなり異色だ。ムスカ(MUSCA)という社名は、イエバエの学名である「Musca domestica」が由来。

同社は会社設立後に事業計画の作成や各種研究調査などを経て、2018年7月から本格的な資金調達を開始。2019年には第1号となるテストプラントを建設する予定となっている。TechCrunch Tokyoなどの各種ピッチイベントには、会社設立時に広報責任者としてムスカに参画し、のちに暫定CEOとなった流郷綾乃氏の登壇が多いが、ムスカ設立前からイエバエを使った飼料・肥料の拡販システムを考案・研究してきたのが串間氏だ。

ムスカ暫定CEOの流郷綾乃氏

具体的には、ソ連が45年の歳月をかけて研究してきた1100世代以上の交配を続けたイエバエを使った肥料・飼料の生産システムを開発。通常は早くても1カ月以上はかかるとされる生ゴミや糞尿の肥料化を、サラブレッド化したイエバエの幼虫を使うことで1週間で処理できるのが特徴だ。さらに羽化する前に捕獲・乾燥させることで、幼虫が動物性タンパク質の飼料に変わるという。

爆発的な人口増加によって2025〜30年ごろに訪れる肉や魚などの動物性タンパク質の枯渇、いわゆるタンパク質危機を、ムスカは独自のイエバエ循環システムによって解決しようとしているのだ。

サラブレッド化したイエバエによって、生ゴミや糞尿を約1週間で肥料化できる

設計技師から商社に転身

なぜ串間氏はイエバエの事業を始めたのだろうか。それは20年ほど前に遡る。串間氏は20代前半のころ、電力会社で設計技師をしていた。すでに家庭もあったのだが、たまたまテレビで見たニュース番組で知ったロシアの科学、宇宙、軍事の技術の技術に強い関心を持ったという。この技術を利用した事業を広めたいという想いから、夫婦ともども電力会社を退職して串間氏の故郷でもある宮崎県に戻ることになる。

そしてその宮崎県で、ロシアの技術を買い取って企業に紹介するという事業を営んでいたフィールドという商社に転職。この会社の社長だった小林一年氏は、ソ連崩壊後のロシアに出向き、研究開発費も給料も出ない状態の研究機関などから有望な技術を買い取って国内の企業に紹介するという事業を手がけていた。科学者の口コミから小林氏の存在がロシアに広まり、さまざまな技術の売買が始まったという。実際に1000件ぐらいの技術を扱ったそうだ。

串間氏は「最も尊敬している起業家は?」という問いに対して、真っ先に「小林氏」の名を挙げ、「彼に衝撃を受けて人生の道筋が決まりました」と答えてくれた。ちなみに最も影響を受けた書籍という問いにも、小林氏が執筆した、イエバエがフィールド社にやってきたときの歴史秘話「寒い国(ロシア)から授かった知恵―ジオ・サイクル・ファーム」(ごま書房刊)を挙げてくれた。

ポテンシャルの高さを実感し、イエバエ事業を分離独立

その後、串間氏は先代社長が会社を畳む際に人脈やノウハウなどを継承して2006年にアビオスという法人を設立。そして、フィールド、アビオスが取得、培ってきたイエバエの技術だけを2016年に事業として分離独立したのが現在のムスカとなる。

串間氏によると「先代社長は完全循環型の町作りを目指していて、その枠組みの中でイエバエの技術に注目していました」とのこと。当時は、自分が使うものとして繁殖させるのみで、現在のムスカが計画している拡販などは想定していなかったそうだ。のちにイエバエのポテンシャルの高さを実感し、大学との共同研究で安全性の確認などを進めていったという。

串間氏によると「イエバエの生命力は強いため、実験プラントのある温暖な宮崎県だけでなく、北海道などの寒冷地などでもプラントを建設できる」とのこと。現在では、日本国内だけでなく米国やEUでも販売できるレベルに達しているそうだ。

狙うはナスダック上場

2018年7月ごろから資金調達を始めたムスカ。会社の規模は現在、経営陣、研究員、インターンを合わせて15名ほど。人手はまったく足りていないないそうで、最重要ポイントを「ムスカのビジョンに共感してもらえる人」としてを人材を募集している。

2019年中に着工を予定しているというパイロットプラントにかかる費用は10億円程度だそうだが、現在のところ調達は順調に進んでいるという。またその前に、パイロットプラント建設に向けた概念検証実験(Proof of Concept)としてPoCラボを建設することも決まっている。同社の主な調達先は、個人投資家とムスカとの協業によって事業の幅が広がる企業が中心のこと。現時点では国内での上場ではなく、ナスダック(NASDAQ)への上場を考えているため、ほかのスタートアップとは資金調達の方法が異なる。

自分にとってイエバエは「人類を救うテクノロジー」だという。昆虫の力はまだまだ積極的に使われていないが、必ず人類の役に立てると確信している。人類の救う手段だと思っている」と串間氏。そしてムスカとしては、「とりあえず私たちのプラントを世界中に普及させること、そしてそれで世界の食糧危機を解消すること、それに向かって突き進んでいく」と力強く語ってくれた。