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育児中のパパママになりきる「なりキリン」がキリンにもたらしたもの

「男性がもっと積極的に育児に関わるため、男性の産休を義務化する必要があるかも!?」

そんな提言から始まったこの企画。

 第3回目の今回スポットを当てるのは、2018年2月から「なりキリンママ・パパ(以下、「なりキリン」)」というユニークな施策を全社展開し始めたキリンホールディングス株式会社。

 「なりキリン」とは、社員が1ヶ月間、仕事と育児を両立するママやパパに「なりきる」という体験研修。時間制約のある働き方や、子どもの急な体調不良などによる勤務変更に対応するなどの体験を実際の職場で行います。考案したのは、キリングループの5人の女性社員たち。彼女たちの提案が全社的な取り組みに発展した背景には何があったのか。キリンホールディングス株式会社の取締役常務執行役員の三好敏也さんにお話を聞きました。

 (聞き手は「みらい子育て全国ネットワーク」代表の天野妙さん、執筆・編集:ハフポスト日本版ニュースエディター吉田遥・中村かさね)

三好敏也さん(左)、天野妙さん(右)

 「これはすごく面白いな」と直感的に思いました

 天野:そもそも2014年に「なりキリン」を始められたきっかけを教えて頂けますか。

 三好:「なりキリン」は、「エイジョカレッジ」(様々な企業の営業職の女性たちが集まるプロジェクト形式の研修)で、キリンの女性の営業職の社員たちが提案したのが始まりです。プロジェクトの目的は「営業職の女性が育児をしながら継続的に就業するために、どのような取り組みをするのが有効なのか」というもの。「なりキリン」は、その中で一等賞を取ることができて、皆様に褒めて頂いたんです。

 私もそんな評判を聞きつけて、「これはすごく面白いな」と直感的に思いました。

 ただ、展開していこうとなると、やっぱり得意先との関係だとか、職場の中での関係だとか、社内でいろいろ反発の声が出るだろうなと。だから、まずはトップダウンで、経営陣にこの取り組みの趣旨を理解してもらうのが一番早いと思いました。そこで、キリンホールディングスの役員全員が集まる経営会議で、「なりキリン」を提案した女性社員たちにプレゼンをしてもらったんです。そしたら社長も「いいじゃないか」っていう話になって。

 天野:最初は20、30人という小さな単位から始めて、今や全社員の2万人で取り組まれるそうですね。うまく広がっていったポイントは何だったんでしょう?

 三好:2万人すべてが急に始めるわけではありませんが、段階的に国内のグループで展開しています。トップリーダーが、意義を理解して、「これは大切だ」とコミットしてやれるかどうかだと思っています。これからの全社展開は、基本的には部門長の「手挙げ」なんですね。できれば「まだやってないの?」っていう雰囲気を醸し出しながら、同調圧力をとって展開していければなと思っています。

三好敏也さん

 実際の業務で体験することの大切さ

天野:「まだやってないの圧力」いいですね。部門長が手を挙げたら、メンバー全員強制参加なんですか?

 三好:研修という形をとっているので、対象となる部門全員が強制的に参加します。たとえばある部が全員で30人だとして、その下に5人とか10人のチームがあります。基本的には、その小さなチーム単位でやるということですね。1ヶ月ごとにメンバーのうち1人がママ(パパ)の体験をして、他のメンバーはママ(パパ)を支える体験をします。部門長などトップも参加します。

 「実際に休んでみる」ということで、最初は周囲の反応が多少ざわつきました(笑)でも、やってみると社外の人から「さすがキリンさんだよね」って言われたりもして。

 「なりキリン」は実際の業務の中で「体験」できるという点がすごく効果がありますね。(子どもの保育園から急に)電話がかかってきて帰らざる得なくなるという体験を部長もする。それで初めて「こういう経験があるんだ」って分かるわけで。そうすると、相互支援や仕事の共有、計画性などの大切さを職場全体で実感することができる。今まで人事がいくら言っても浸透しなかったことなんですよね。体験するって大事ですね。

 天野:とはいえ、キリンは大きな組織。これを全社でやろうすれば、反対勢力もいて当然。一筋縄ではいかなかったのでは?

 三好:まだ全く過去形じゃないと思いますが(笑)端的な例ですが、トライアルの段階で、「なりキリン」に大反対したリーダーがいました。「こんなのできるわけない、何言ってんだ」と。得意先のアポイントメントが入ったときに「今日はダメです」なんて言えない、と。でも実際に「なりキリン」を始めると、職場での協力意識が進んだり、残業が減ったにも関わらず、パフォーマンスは落ちなかった。そんな効果を目の当たりにして、その上司も完全に立場を変えて「どうせやるんだったらこれは全社でやるべきだ」という考えに変わっていきました(笑)

 天野:すごい!敵陣の将が、転じて味方の強力な戦力になったわけですね。

 なりキリンが全社に浸透し始めた土壌

天野:キリンさんは、以前から女性に先にキャリアを積ませる「前倒しのキャリア」やライフイベントの前に研修を多く設けたり、女性活躍への取り組みを行っていますよね。男性社員から「えこひいきだ!」の反発などもあったんではないでしょうか?

三好:もちろん社内でも、「何で女性だけ前倒しなの」という反発は根強くあると思います。でも私自身は「それぐらいでちょうど良い」って思っています。女性は「これまでチャンスが与えられてこなかった」という実態があるわけだから。多少なんらかのサポートしていかないとバランスが取れないですよね。

天野:これまで女性活躍の土壌を耕してきたからこそ、「なりキリン」が全社に浸透し始めたのですね。

三好:そうですね。女性活躍もそうですが、テレワークやコアなしフレックスを導入したりと、働き方を柔軟にする取り組みも続けてきました。こうした一連の取り組みとして「なりキリン」も始まったので、社員としても(「なりキリン」が)「ぽっ」って出てきたという感じは受けないかもしれないですね。

三好敏也さん(左)、天野妙さん(右)

 女性活躍を推し進める背景には「姉」の影響

天野:企業トップの方々は「女性に活躍してほしい」って言うんですけど、アンコンシャスバイアスの認識がない方が多いです。そもそも最初から無意識に男性に仕事を与え、成長の機会を与え、下駄をはかせていることに、トップも男性側も気が付いてない。

でも、三好さんは、「男性は、今まで『えこひいき』されていたんだから、その下駄を脱げ。その下駄を女性に履かせないと一緒にならないんだよ」っていうお考えですよね。でも「俺たち下駄履いているよね」って男性側が認めるってなかなか難しいことだと思うんです。そんな三好さんのマインドセットを作った原体験みたいなものはあるんでしょうか。

 三好:「とことん女性は優秀」だと思っているからじゃないですかね。というのは、私には姉がいまして。彼女はとても優秀なんです。もし彼女が私と同じようなキャリアを踏んでいたら、大きな会社の社長にはなっていたかもしれないと思っています。でも、彼女は我々よりも上の世代ですから、(当時)女性が会社に入るというのも一般的ではありませんでした。

 天野:身近に優秀な女性がいたからこそ下駄の存在に気が付けたんですね。

 三好:たまたま今日姉貴の誕生日だったんです。今朝、ラインで「おめでとう。64歳だね」って送りました。

 天野:なんて素敵な関係!

 三好:姉は、私がぼーっとしていると全て決めてくるような人で(笑)「敏也はのんびりしているから私が決めてきた」と言って、姉に山小屋のバイトを勝手に決められたことがありました。それでも私は、今考えれば滑稽ですけど、姉に従って行くんですよね。でも押されて行った先の山小屋でいい経験をさせてもらって。だから私の原体験っていうのは、「嫌々でも行ったところで必ずいいことが起きる」っていう。

 天野:お姉さんのおかげで、「半ば強制的な体験は意識を変化させる」ということを身をもってご存知なんですね。お姉さんの影響、すごく大きいですね!

 三好:すごく大きいです。いい意味でも悪い意味でも(笑)

インタビューに応える三好さん

 なりキリンは体験研修、育休はリアルな体験。だからこそもっと意義がある

天野:「男性育休100パーセント宣言」を始めている企業もありますが、男性育休について今後どのようにお考えですか?

三好:「育児休暇を取りたい」と思ったときに100パーセントちゃんと取れる、そんな組織の風土だとかリーダーの意識を作っていくことを大切にしたいと思っています。

 「なりキリン」はどこまでいっても体験研修ですが、男性の育休はリアル。本当に子どもがいて、夜泣きして、熱出して、そういった経験をするんですよね。育休をとって家庭でリアルな体験を男性の社員もするっていうのは、「なりキリン」の状況を見ているともっと意義があるんじゃないかなと思っています。

 男性育休を取得する社員も増えてきました。体験した社員からは、子どもとゆっくり過ごす時間を持つことができて、「子どもの成長を感じられた」とか「幼児教育の課題に気づいた」という感想がありました。また、「本を読む時間ができて、自己啓発が進んだ」という声もあったり。一方で、仕事から離れてみて「仕事ができる幸せ」を感じた人もいたみたいですね。

 男性の家庭進出は、男性に生活者視点みたいなものを補強してくれます。社員が新しい視点を身につけることは、会社にとってもプラスになります。その意義をみんなが認識できるようにしていくのが私の役目だなと思っています。

三好敏也さん

キリンホールディングス株式会社

育児休業は、男女問わず、子供が2歳に達するまで利用可能。
・短時間勤務(5時間から)を含めて、通算4年かつ、子どもが小学校3年末になるまで取得可能。

三好敏也(みよし・としや)取締役常務執行役員

1982年4月、キリンビール株式会社入社。2015年3月より、キリンホールディングス株式会社取締役常務執行役員、キリン株式会社常務執行役員、サンミゲルビール社取締役を兼務。2018年3月からは、協和発酵バイオ株式会社代表取締役社長も務める。

親も、子どもも、ひとりの人間。

100人いたら100通りの子育てがあり、正解はありません。

初めての子育てで不安。子どもの教育はどうしよう。

つい眉間にしわを寄せながら、慌ただしく世話してしまう。

そんな声もよく聞こえてきます。

親が安心して子育てできて、子どもの時間を大切にする地域や社会にーー。

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