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男性育休「義務化」は日本の男性をパパにするのか?

2019年6月5日、男性育休義務化を目指す議連設立総会(自民党本部)。筆者撮影。

6月5日自民党本部で行われた男性の育休「義務化」を目指す議員連盟発足に民間オブザーバーとして参加した。会場に入る廊下からマスコミのカメラが回り、各テレビ局にニュースとして大きく取り上げられた。5月の発起人会よりもさらにマスコミが増えているのは、ネットで炎上しているくるみん取得企業の「育休復帰から2日後の転勤命令によるパタハラ疑惑」と、前日の男性育休取得率発表があったからだろう。「男性育休義務化」というテーマがこれだけマスコミが集まる時代になったのだ。

 前日には厚労省から男性育休取得率の発表があり、前年から1%上がったものの、10年間周知し20億円もの周知事業の予算を使いつつ、10年間で1%台から6%までしか上がっていない。これは企業については「育休への周知義務」しかないからで、周知の限界が今回の「企業への義務化」につながるのではないだろうか?    

育休の取得については男女ともに法律もあり、育休を取ることへの不利益取扱いの禁止もハラスメントの防止措置もある。しかし、男性が取ると、くるみん取得企業でも、パタハラと疑われるような転勤が言い渡される実態がある。取れない制度には意味はない。  

義務化というと法制度の面から「女性も義務ではないのに、どうして男性だけ義務にするのだ」という声が必ずでる。議連が目指すところは、現在企業に対する周知義務しかないところを「個人ではなく企業がプッシュ型で社員に育休を取ってもらう」というところだ。

「男性の育児参加への社会、企業の意識を変えたい」と発起人代表の松野博一議員(元文科大臣)はいう。「義務化というのはショッキングな言葉だが、男性が育児に参加するという意識改革を、男性・企業・社会として進めること。取得率向上が目的ではない」と発言した。松野議員自身、「幸か不幸か、落選期間中に子育てにしっかり関わった」経験があり、「人生の中で一番思い出深い時期」と語っていた。  

 男性育休「義務化」というワードには、一般からの反発も大きい。

 企業に義務を課すのは、特に中小企業には負担が大きいのでは?」

「男性が家にいてゴロゴロしていても役に立たない」  

しかし「男子学生の8割が将来育休を取りたいと回答し、女子学生の9割が将来のパートナーには育休を取ってほしい」((株)ワーク・ライフバランス社長 小室淑恵さん)という時代の流れは無視できないだろう。

 

「パパはゾンビ問題」を解決する義務化  

昨年流行語にもなった「ワンオペ育児」という悪名高い風土がある。女性が一人で家事育児、そしてさらに仕事(いま女性の労働参加率は7割を超え8割近くになっている)を一人でオペレーションすることをいう。女性の就業に関わりなく7割の男性が家事育児には参加していない。この悪しき「子育ての全責任は全部ママで男性はお手伝い」という風土を変えるには、何をすればいいのか? 社会を動かすには「男性育休義務化」ぐらいの「強力な政策のメッセージ」は必要だと思う。    

「義務化」という言葉にこだわらず、これはどんな社会を目指したいかというビジョンから考えて欲しい問題だ。ワンオペ育児という流行語を生むような光景をいかに変えるかということだ。「男女が一緒に子育てをする」という当たり前の光景をどうしたら実現できるか?   

5月30日、一億総活躍、働き方改革実現会議のフォローアップ会合があり、私は官邸で「男性育休義務化」についての提言を行った。私が提案したいのは、「両親学級」など教育とセットでの、産後すぐの2週間以上の「子育てスタートアップをカップルで過ごせる男性育休(産休)」である。資料はこちら

5月30日、「ニッポン一億総活躍プラン」フォローアップ会合・働き方改革フォローアップ会合合同会合が行われた。

以前から、政府の少子化や働き方改革の会議に有識者議員として関わり、「男性育休の重要性」と「パパはゾンビ問題」について発言してきた。「パパはゾンビ問題」はあるワーキングマザーの「パパは死んだものだと思っている」という発言から生まれた言葉だ。「父親がいると思うと、一緒に子育てをしてくれるとつい期待してしまう。しかし実際には平日は夜遅く帰宅するのでほとんど役に立たない。いっそ「死んだもの」と思わないと自分が辛くて仕方がない」というのだ。会場にいた他のママからも「私も私も」という声が上がった。

 パパは家族のために一生懸命仕事をしているのに「ゾンビ化」する悲しい現実がある。しかしこれは「働き方」の問題でもあり、パパが育児に関わりたいと思っても、会社がそれを許さなかったという背景がある。

 だが時代は、少しずつではあるが変化している。

 平成で進んだのは「女性の社会進出」と「働き方改革」である。働き方が変わり、どこの企業も長時間労働是正に動いている。「年休5日の取得義務」もある。民間の調査では「時間への意識が増した」という結果も出ている。まさに「男性育休」を推進するのに、格好のチャンスである。(「パーソル総合研究所・中原淳 長時間労働に関する実態調査」より)

図表1

ところが、仕事の時間が短くなると、女性は「家事育児時間」が増え、男性は「テレビを見る時間が増える」という調査結果がある。また残業なしの男性と比較すると、60時間残業している女性の方が子供との交流時間は長い。  

 働き方が変わっても、男性がもっと家庭に参画してもらうには、さらなる「後押し」が必要で、その鍵が「男性育休『義務化』」にあるのではないだろうか?

 

フランスの「父親産休」の成功の秘訣は?

「家にいても役に立たないパパ」を作るのは、子育てという長い事業のスタートアップを一緒にきれていない初動の関わり方である。  

 私が「義務化」という時のイメージは、「フランスの男性と子供の受け入れのための休暇」だ。今日の発足会では、友人のフランス在住ジャーナリスト高崎順子さんに翻訳してもらった資料「フランス・父親休暇の評価報告」を引用して、発言した。資料はこちら。  

 高崎さんによると「海外では父親にも‴産休(出産直後の休業)‴と‴育休(保育園に託さず自宅保育するための休業)‴⁣⁣を分けて考えている」ということだ。

この報告書は前者の「産休(出産直後の休業)」についてであり、この制度は2002年から導入され、取得対象の父親の7割が取っている。企業が3日、政府が11日間を負担する14日間の休暇だ。別名「父親ブートキャンプ」。半ば強制的に「父親にする」ための休暇である。「病院にいる間に、父親の来院に合わせて、沐浴やオムツ替えなどを両親ともに指導をする」というほど「教育」も徹底している。  

 一方、フランスでも後者の「育休」の方は全く普及せず、取得比率は日本と同じぐらい低い。報告書には「子の誕生直後の父親休暇は父子の長期的良好な関係の形成を決定づけるものであり、その効果は思春期まで影響する。フランスにおいては、父親休暇は家庭内での長期的な家事育児分担にもポジティブな影響を与えているとのデータが出ている」とある。  

 フランスの父親育休は「出産直後の心身脆弱な状態に置かれた母親たちにとって、父親の存在は「脆弱な状態で孤立しないこと」を意味し、母子の保健環境の改善につながる」という位置付けでもある。産後の母親が心身ともに辛い状況にあるのは「日本での産後の妻の死因の一位は自殺」というショッキングなデータでもわかる。  

 「父親ゴロゴロ」問題は、産前産後の「両親教育」と「男女で過ごす子育てスタートアップ」休暇で解決するというエビデンスがすでにフランスにはあるのだ。

 

 必要なのは「子育て事業スタートアップ休暇」

産後すぐの2週間以上の「子育てスタートアップをカップルで過ごせる男性育休(産休)」で、男性の長期の育児への関わりを増やしたい。ワンオペ育児を解消したい。  

 必要なのは、まずは教育だ。日本には充実した産前の「母親学級」があり、自治体によっては「父親学級」「両親学級」もある。しかし四国の方から「少子化が進んだ自治体では、母親学級が精一杯で、父親や両親学級は開催できない」と聞いた。それなら「母親学級」を最初から「両親学級」として開催することが、なぜできないのだろうか?  

 次のハードルはお金の問題だ。企業ではすでに「父親育休100%」を競う流れがある。三菱UFJ銀行や積水ハウスは30日間の有給休暇を「男性育休」に当てる制度を作っている。企業が、育児休業給付金ではなく、有給休暇で父親育休を取得させるのはなぜか。手続きなどの「使いにくさ」とお金の問題だ。男性育休100%取得企業に聞くとお金の問題は大きい。「休んでも役に立たないんだから、その分稼いできてよ」という妻ブロックも男性育休取得を阻むハードルとなる。

「金銭的な損失」については、今の雇用保険の給付金の水準を67%から80%に引き上げることで、社会労働保険の免除でほぼ100%の給与が保証されることになる。  

 有給休暇による男性育休制度で、100%収入が保証されるのはありがたいが、育児休業給付金(雇用保険による)を使えば、企業はその分の人件費を浮かせて、代替要員などに当てることができる。有給を使うと「他の社員へのしわ寄せ」が解決しないのではという意見もある。  

 次は財源の問題だ。日本では「産休」なのか「育休」なのかで財源が違うという問題もある。フランスの「父親休暇」は「育休」とは違うものと区別されている。報告書には「女性の産休に対応する『子の誕生直後家庭に入るための』男性の権利とされ」とある。日本でも同様の権利があってもいいのではないだろうか?  何よりも「評価」や「迷惑」を恐れて、制度があるのに「使えない制度」化していることを、どう解決して行くのか? 

 これはやはりトップダウンが効果的で、企業のトップが声をかければ横並び意識の強い日本では、あっというまに100%近くまで数字が上がる。実は企業の「男性育休100%」の達成はトップの本気度次第なのである。そしてトップの本気を後押しするのが法律なのだ。  

 中小企業には負担が重いという話もあるが、議連の発足会で事例を発表した新潟のサカタ製作所、坂田匠代表取締役社長は「男性育休を取らせるのはそれほど難しくない」という。「売り上げが下がっても育休を取れ」と社員に明言して男性育休取得100%を実現した。その結果、売り上げは上がり、人手不足の新潟でも、採用には全く困っていない。  

 他にも自営業者や非正規の男性への対処など、様々な問題はある。  

 課題は父親をいかに子育てのスタートに巻き込み、継続的に子育てを「自分ごと」化してもらうかだ。 今回の議連発足には期待している。発起人代表の松野博一議員、和田義明議員、森雅子議員、松川るい議員と50名ほどの議員が参加する。加藤元厚生労働大臣はじめ、大臣経験者が十一人という大変パワフルな議連である。6月には中間報告をまとめるとのことで、今後のドラスティックな改革を期待したい。ぜひ「強めの周知義務」などの「弱いプッシュ」に終わらないで欲しい。  

 「社会を変えるメッセージを持った政策」として「男性育休の義務化」は必要と筆者は確信している。家事も育児も仕事も背負い、どうして2030(2020年までに責任ある地位の女性を30%に)が達成できるのだろうか? 

 万策尽きた日本の未来には、「子育てする父親」こそ必要なのだ。

 

Yahooニュース個人記事に6月5日に掲載された

 男性育休「義務化」は日本の男性をパパにするのか?

を転載しました。