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残業せず早く帰る「朝型勤務」のメリットは? 働き方改革の成功事例

勤務開始時間を繰り上げ、残業せず早く帰る「朝型勤務」。伊藤忠商事が2013年に導入し、コスト削減につながり話題になりました。その他、石川県の食品メーカーは、人手不足の解消以上の効果をあげています。成功事例から朝型勤務のメリットを考えます。

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2019.2.15

伊藤忠商事の「朝型勤務」の3年後の効果

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総合商社の伊藤忠商事は2013年10月、「朝型勤務」を導入しました。定時は9時~5時15分ですが、朝の5~8時に仕事を開始した社員には、9時までの業務時間に対して深夜勤務と同じ割増賃金を支払いました。労働基準法では50%増しです。さらに、朝8時までに業務を始めた社員にはサンドイッチ、ジュース、スープ、コーヒーなど軽食を無料支給。終業は夕方5時15分から繰り上げになりませんが、夜間の時間外勤務は8時以降は原則禁止、10時以降は禁止としました。
導入3年後の社内調査によると、朝8時以前の出勤者は導入前の約20%から約45%に増え、無料支給の朝食は1日平均約1,100人が利用しています。夜8時以降の退勤者は導入前の約30%から約5%に減り、勤務時間が朝型へ、明らかにシフトしていました。
この「働き方改革」で、総残業時間は導入前に比べて約15%減り、時間外手当の支給額は約10%減。朝食代の負担などを差し引いても約6%のコスト削減になりました。電力使用量は約7%削減されています。

政府も推進する「朝型勤務」には賛否両論

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2015年、安倍首相は閣僚懇談会で朝型勤務の推進を指示し、厚生労働省は経団連、日本商工会議所などに朝型勤務推進への協力を要請。その夏、「ゆう活」という国家公務員の始業時間の1~2時間前倒しが実施されました。2017年3月に発表された「働き方改革実行計画」でも、残業時間抑制策としてノー残業デーや在宅勤務などととともに朝型勤務の推進が盛り込まれています。
しかし、朝型勤務には賛否両論あります。反対論は「早朝の交通手段がない」「家族に早起きを強制する」「子どもを保育所に預けて出勤できない」「夜の付き合いで睡眠時間がなくなる」「サービス残業が夜から朝にシフトするだけで長時間勤務の実態は変わらない」などさまざま。一時は盛んだった朝型勤務導入の動きも最近は鈍ってきたようです。カルビーのように中止する企業も出ました。
それでも、朝型勤務が向いている業種、向いている職場、向いている職種、向いている従業員があり、やり方次第で効果があがるのも確かです。それにより働き方改革だけでなく、人手不足も解決できた企業があります。

朝型勤務の高齢者のパートで人手不足を解消

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石川県金沢市に本社がある食品メーカー、オハラは、こんにゃく、ゼリー、プリン、さつまいもペーストなどを製造・販売しています。菓子事業への進出で社業は順調に拡大していましたが、新幹線の開通を控えて北陸地方は有効求人倍率が高く、工場の製造現場では慢性的な人手不足が悩みでした。
2013年、それまで朝9時から夕方5時までの工場の稼働時間に合わせていた勤務時間に、朝5時から9時までの朝型勤務の時間帯を加えました。工場も朝5時に稼働開始です。しかし、一般社員は原則それまで通りの勤務時間で、朝9時までの朝型勤務の時間帯、作業するのは新たに募集したパートタイマーで、9時に一般社員にバトンタッチします。
朝型勤務で4時間限定のパートの募集は、チラシで「年齢制限60歳以上」とうたいました。高齢者雇用の促進のため違反とはされません。60歳以上であれば子育てはすでに終わっていて保育所送迎の問題はありません。工場がある津幡市は金沢市の郊外ですが、若い頃に自動車の免許を取っているので早朝の通勤手段の問題もありません。何より好都合なのは高齢者は早起きで、朝に強いということでした。4時間限定なので体力的にも大丈夫です。実際はもっと働けると、一般社員に交じって正午まで働く人もいるそうです。
パートといえば職場では「補充戦力」「助っ人」とみられがちですが、オハラでは朝型勤務の高齢パートを人生の先達として敬う気持ちで接するよう、一般社員に「達人」と呼ばせています。達人の前歴はざまざまですが、表彰制度の対象にもなっていて、一般社員に負けないくらい仕事に対して意欲的です。
パートの充足率は高く慢性的な人手不足は解消。生産体制を需要に応じてフレキシブルに運用しやすくなる効果もあらわれました。その余力を活かしてOEM生産を拡大し、独自の新製品の開発も進めています。
オハラの実例から、朝型勤務が向いている業種は製造業で、向いている職場は自動車通勤者が多い地方。向いている職種は現場の時間限定のパートで、向いている従業員は朝に強い比較的高齢の人だとわかります。全社的に一律に導入するのではなく、向いている部分から始めて結果が良ければ徐々に拡大していけば、無理なく導入できると言えそうです。
寺尾淳(Jun Terao)

寺尾淳(Jun Terao)

本名同じ。経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、現在は「ビジネス+IT」(SBクリエイティブ)などネットメディアを中心に経済・経営、株式投資等に関する執筆活動を続けている。

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