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平日5日、外食する僕が考える、初めて行くお店での楽しみ方

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はじめまして。

「東京最高のレストラン」というガイド本の編集長を、2001年の創刊以来、18年間続けている大木淳夫と申します。この本は「ミシュラン」同様、毎年年末に刊行されますが、覆面ではなく、食のプロたちが実名でお店を採点。さらに座談会形式で注目の店を語り合うという特徴がグルメ好きの方々から評価をいただき、気が付けば、日本で一番歴史のあるレストランガイド本となりました。

 かような経歴ですので、ほぼ毎日新しいお店を探し続けなければならず、恐らく一般的な人よりかなり多く外食をしていると思います。

 今回はそんな僕が、初めてお店を訪れる際、果たして何に気をつけているのか、店内でどう過ごしているのかをお伝えしたいと思います。

 

新しいお店を楽しむにはパワーを使う

 

僕は基本的に、週に5日平日の夜はすべて外食をしています。

ただし、何軒もお店をはしごしたりといったことはめったにしません。「一店入魂」を信条に、たくさん食べてたくさん飲みます。とはいえ、太り過ぎて日常生活に支障をきたしたりはしたくないため、朝は自家製甘酒をお猪口一杯。昼は食べないか、食べても12時半までに食べ終わるようにしています。遅い昼食はディナーを楽しむ邪魔になるからです。だってお腹が空いていればいるほど、より楽しく食事ができるではないですか。

 僕は職業柄、新しいお店や初体験のお店に入ることが多いですが、いつも新しいお店ばかりに行くというのは皆さんにはお勧めできません。なぜなら、お店というのは常連になればなるほど楽しめるからです。お店側の人間になったつもりで想像してみてください。初めてのお客さんと常連さん、どちらを大切にしますか? どちらが多いほうがホッとしますか。そういう単純な話です。

 客側も同じです。新しいお店で一から関係性を築くのは、結構パワーを使うものなのです。だから毎日のように店を訪れている僕でも、初めてのお店へ入ることにはまったく慣れません。もちろんドキドキ感やわくわく感もあるのですが、「怖いなあ」「緊張するなあ」「本当は馴染みの店で寛ぎたいんだけどな、仕事のためだ……」そう思うこともしばしばです。

 レストランは舞台のようなもの。客、サービスをする店員、料理人、それぞれが共鳴しあいながら最高の芝居を作り上げる努力をする。そこで初めて、特別な忘れがたき時間が生まれる。そう、単にお皿の上の料理が美味いか不味いかではないと思っています。

 これはなにも高級料理店に限りません。どんなお店だって同じです。

お店に入るとき、僕は必ずスタッフの目を見て、満面の笑みを浮かべながら「こんばんは」とか「よろしくお願いします」とあいさつをします。これは、「えっと、私は純粋にお店を楽しもうと来た客であって、あなたたちの敵ではありませんよ」という合図です。

 またお店側の視点になりますが、彼らにしてみても、初めての客というのは不安なのです。全く素性もわからないわけですから。その初対面の時、相手がむっとして無言なのか、笑顔なのかでは、全然印象が違いますよね。

 

サービスする人が喜ぶことは意外とシンプル

 

席に着いたらとにかくコミュニケーションを心掛けます。なんでもいいんです。「今日は寒いですねー」とか。これは物騒な言い方ですが、試合の最初に剣先を交えるようなものです。店も僕も、まずはお互いの状態、力量を探り合う。そんな中で「こいつやるな」とか「まだなれてないかもな」と感じ合い、どのレベルでこれからの時間を過ごすのかを、なんとなくお互い定めるわけです。

 かつて、あるレストランサービスの達人にインタビューしたことがあります。その時「サービスの人って、お客さんにどうされたら嬉しいんですか?」と聞いたのですが、すぐさま「それは“ありがとう”って言われることですよ!」とお答えいただきました。おお、そんな単純なことなのか!と感じ入り、以来、給仕されるたびに「ありがとう」もしくは「ごちそうさま」という言葉を欠かしません。もちろんとても美味しければ「恐ろしくうまいですよね!」と言うこともあります。これが自然に出るようになると、サービスの人もリラックスしてくれて、お店と客の間になんだかいい空気が流れ、自然と会話が弾むようになります。ぜひ試してみてください。

 まあ時々、どうにも怖そうな人がいますが(特に料理人)、実際はほぼそんなことはありません。人見知りか料理に集中しているだけです。以前、お店では一言もしゃべらない天ぷら名人に取材をしたら、あまりに饒舌でびっくりしたこともあります。

 繰り返しになりますが、初めての店は客も不安なら店も不安なのです。ですからやることはひとつ。全力でコミュニケーションを取って、なにがなんでもお店を楽しむこと。小さなあらばかり探すのは人生の無駄ではないでしょうか。もちろんうまくいかないこともあります。

僕も偶然入ったある居酒屋で、ほかのお客さん全て常連で店主には見向きもされず、茫然として一瞬パニック状態になったことがあります。「いやいやいかん、落ち着け」と自分に言い聞かせ、とにかく楽しむんだとニコニコ飲んでいたら、ある常連さんが声をかけてくれたことがあります。しかもその方は偶然知り合いの知り合いというおまけ付き。パニック状態は何処へやら、すごくいい夜になったこともあります。

 もし、お店に入って「失敗だった!」と感じた時はビールの一杯も飲んでとっとと去ればいいんです。そしてSNSなんかに投稿せず、「苦い思い出ファイル」にでも入れておけばいいではないですか。

 とはいえ、以前に比べ、今はいいお店に出会える確率が高い時代です。シェフやサービスの人の意識も高くなり、クラウドファンディングなどの浸透により、意欲のある人が面白い店を出しやすくなりました。ぜひ積極的に新しいお店に行って、気に入ったらまた訪れてみてください。一般的に3回行けば「常連」です。そんな店が4、5軒もできたら、新しい世界が見えてくるはずです。