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体罰禁止法案が衆院通過、スウェーデンの専門家はどう見た?「暴力なしに子育てされる権利が子供にはある」

相次ぐ児童虐待の防止強化を目的として、体罰禁止を明記した児童福祉法等改正案が5月28日、衆議院本会議で可決された。今後は、参議院に審議の場が移される。

これを受け、40年前に世界で初めて法律で体罰を禁止したスウェーデンから児童オンブズマンのエリサベット・ダリーンさんが来日し、弁護士の森保道さんと共に日本記者クラブで、5月30日に会見を開いた。

同会見では、どうすれば日本で体罰のない社会が実現できるかについて、スウェーデンの事例を交えた報告が行われた。

スウェーデンから来日した児童オンブズマンのエリサベット・ダリーンさん(写真中央左)、と弁護士の森保道さん(写真中央右)

スウェーデンでも、40年前は世論の賛同は得られていなかった

まずダーリンさんは、体罰禁止の法制化を目指す日本の現在の状況について、「歴史的な瞬間に立ち会っていると思う」と語った。

スウェーデンでは、40年前の1979年に世界で初めて体罰などの禁止が法制化された。

だが、同国での体罰禁止が周知されたと感じたのは法制化から2年経った頃であり、当初から世論が盛り上がっていたわけでは決してないとダリーンさんは言う。

「法制化された当時、国民の大半は国会での決議について賛同していなかったのです。ですが、法律を作ることでそれが規範となり、やがては社会の中でも効果が実証されていくいう過程に非常に意義がありました」

「例えば、自動車のシートベルトの装着が義務化された時にも、同様に多くの国で賛同を得られませんでした。しかし法律ができると、仕方なしでもするようになるのです。その意味では、強制することに一定の意味があると思うのです」

このような状況から始まった同国での体罰禁止の法制化。続いてダリーンさんは、体罰の法的な禁止が世の中に浸透するために必要な事として、社会が広く普及活動を行う重要性を強調した。

「スウェーデンでは、政府やNGOが積極的に宣伝し、体罰の禁止事項が世間に広まった。法制化から2年後には、国民の成人のうち9割が、体罰禁止の法律を知っているという状況を作り出せたのです

「児童への体罰を法的に禁止した国の数を示した地図をスウェーデンのSave the Childrenで制作しましたが、日本も近い将来、この地図に載っていただきたいと強く思っています」

Save the children Swedenが制作したMap Of The 53 Countries That Ban The Corporal Punishment Of Children.(June 11, 2018)。地図には反映されていないが、現在ではネパールが追加された事で、54か国が法的に体罰を禁止している。

法制化の目的を正しく認識する事とメディアによる啓蒙が重要

現在ではスウェーデンを含め、54か国が法的に児童に対する体罰を禁止している。

体罰禁止を法制化する流れが徐々に世界に広まる中、最も大切なのは、法制化の「目的」を正しく認識する事だとダリーンさんは指摘する。

「体罰禁止の法制化の目的は、親たちを刑務所に入れる事ではありません。子どもたちには『子どもたちには、暴力なしに子育てを行われる権利がある』ということをきちんと認識することなのです。子どもたちの権利として、安全で、良いしつけを受ける権利をしっかりと守る事が大切なのです」

「暴力を振るうことなく、子育てなんてできるのでしょうか?」という質問を頻繁に受けるというダリーンさん。暴力なき子育ての実現に向けては、メディアが果たすべき役割について言及した。

「国を越えた横断的なキャンペーンが必要になると思います。社会の様々なグループないしは人々が集まって、暴力なき子育てとは何かを考え、議論する必要があります」

「そして、その役割はメディアが担うべきだと思っています。メディアの役割は非常に重要で、子どもの問題についてきちんと問題を提起する、暴力について積極的に取り上げ、教育を啓蒙する事が求められているはずです」 

スウェーデンから児童オンブズマンのエリサベット・ダリーンさん

児童虐待や体罰根絶のための法制化実現に向け、まだ道半ばにある日本。

日本弁護士会の声明によれば、今回の衆議院で可決された改正案は、児童への体罰禁止を明文化したことには意義があるとした一方、その内容には課題が残り、完全でないことが指摘されている。

スウェーデンの事例を見ても、法制化の実現はゴールではなくスタートラインに過ぎない。実現した後、個人やメディアがどのように社会にアプローチできるのか、これからも考えて続けていく必要があるのかもしれない。