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リーマン後の米国経済の復活は「アベノミクスのお手本」となっている

リーマンショックで世界的に金融バブルが崩壊し、米国でも景気が悪くなった。自国の経済が悪くなったときは、海外経済に引っ張ってもらわないと、なかなか回復には至らない。これは経済政策のセオリーである。そこで、米国は理にかなった政策ということで、迅速に「輸出倍増計画」というものをおこなった。それが功を奏し復活に近づいた一因となった。

米国経済を復活させた3つの要因

米国経済,日本株
(画像=tale/Shutterstock.com)

具体的には、大きく3つのポイントがあげられる。1つ目は、大胆な金融緩和である。輸出を増やすために、大胆な金融緩和を行いドル安にした。しかし、その結果、日本は円高になってしまった。2011年には1ドル70円台だったため、いかにドル安だったのかがわかる。そうして、米国は輸出競争力を増した。

2つ目として、輸出を増やすために、米国は経済連携協定を進めた。貿易相手国との関税を安くするためである。当時最も象徴的だったのは、米韓FTA(自由貿易協定)である。米国は今ですら保護主義に転じているが、当時は経済連携協定を推進する立場にあった。

また、2000年代以降、世界の工場として中国が経済成長率を高めてきた背景には、日本の企業が中国に生産拠点を移した以上に、米国の企業が中国に生産拠点を移していたことがある。

米国は中国だけではなく、メキシコなど様々な新興国に、積極的に生産拠点を移した。日本でも、産業の空洞化が問題となったが、生産拠点を外に移してしまうと、それまで国内の生産拠点で働いていた人たちの雇用が失われてしまう。そのようなことが、実は日本以上に米国で起こっていた。

2000年代以降、米国の製造業がどんどん外に出て行き、生産現場での労働力であるいわゆるブルーカラーの雇用が大きく減った。それまで国内で作っていたものの生産拠点が海外に移り、米国から世界に輸出する生産量が減ってしまった。そのため、輸出を倍増するために、外に出てしまった生産拠点を米国に戻す必要性から、製造業の国内回帰という現象が起こった。

その際に効果があったのが、ドル安、関税を安くしたこと、そして3つ目がシェール革命である。

それまでは採取できなかった、地下のかなり深いところに埋蔵されていたシェールガス(堆積岩の層に含まれる天然ガス)を採取する技術が進歩し、米国国内でシェールガスの生産が大量にできるようになった。これで、エネルギーのコストも安くなった。

つまり、ドルも安い、関税も安い、エネルギーも安いということになると、経済成長が著しく人件費が高くなった中国等よりも、国内に生産拠点を戻したほうがいいという所も出てくる。それで、米国では国内に生産拠点が一部戻ってきた。このような製造業の国内回帰により、ブルーカラーの雇用も増え、リーマンショック後の米国経済はいち早く復活したのである。

アベノミクスのお手本になった米国の経済政策

一方、日本は原発事故に伴い、原発が動かせなくなった。しかし、電気を止めるわけにはいかないため、火力発電で補っている。なかでも最も使われているのが、天然ガスである。

天然ガスで発電できる設備がそれだけあることと、環境に優しいことがその理由の一つである。実は、原発事故が起こる前から、日本は世界最大の天然ガスの輸入国だった。しかし、さらなる輸入量を増やさざるをえなくなった。

主に中東や東南アジア、豪州等から輸入している。日本としては、たとえ値段が高くても買わないと電気が止まってしまうため、否応なしに契約せざるをえない。輸出する側からすれば、高い値段でも買ってくれるということで、結果、「ジャパン・プレミアム」といわれるような値段になってしまっている。

2019年1月時点での日本が輸入した天然ガスの価格は、100万BTU(熱量の単位)で12ドルである。しかし、ヨーロッパ諸国も天然ガスを輸入しているが、100万BTUで7.26ドルである。本来は同等の値段で輸入できなくてはおかしいはずだが、日本は足元をみられ、明らかに高い価格で買わされているのである。

一方、米国では、国内でシェールガスが採れるようになったため、2019年1月時点では、何と100万BTUで3.08ドルしかかかっていない。これだけ安ければ、製造業の国内回帰に追い風となる。

今の日本は、アベノミクスによって経済を復活させようとしている。米国経済を復活させたこれらの要素というのは、実はアベノミクスの様々な所に組み込まれている。

まず、大胆な金融緩和がそうであった。まさにアベノミクスの1本目の矢である。経済連携協定を進めるというのは3本目の矢である。日本国内ではシェールガスは採れないため、シェール革命そのものはできないが、3本目の矢の中のエネルギー改革の部分で、海外のシェールガスを輸入するという方向に進んでいる。

ガスを輸入する場合には、液化して輸送しなければならないため、余分なコストがかかる。しかし、そのコストを足しても、米国から今までより安い値段で輸入できる可能性がある。2017年から米国のシェールガス輸入が解禁されている。

今は、このようなシェールガスを大量に輸入できないため、東南アジアや中東諸国等から高く買わされているが、調達先が多様化されれば、「こんなに高い値段だったら北米から買うよ」と言えるようになるため、断然、交渉力が増す。そのようなこともあって、日本では、天然ガスを安く買う方向で進めている。

このように、米国経済の復活は、実はアベノミクスのお手本になってきたといえる。

永濱氏44_1
(画像=(出所)世界銀行)

永濱利廣(ながはま としひろ)
第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 1995年早稲田大学理工学部卒、2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年4月第一生命入社、1998年4月より日本経済研究センター出向。2000年4月より第一生命経済研究所経済調査部、2016年4月より現職。経済財政諮問会議政策コメンテーター、総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事兼事務局長、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使。