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スポーツもビジネスも、どちらも全力で諦めない。NTT Comラグビー部は、アスリートの“第3の選択肢”を目指す

内山浩文さん

昭和のスポーツ界を支えた企業スポーツは、競技の発展に伴って、近年プロリーグに取って代わられた。

先陣を切ったプロ野球やJリーグ、2016年に開幕したバスケットボールBリーグに続こうと、スポーツ界全体でプロ化を目指す動きが盛んになっている。 

競技発展や競技力向上のために、企業スポーツはプロ化すべきなのか。

そうした立ち位置が問われる中、NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)のラグビー部「シャイニングアークス」でゼネラルマネジャー(GM)を務める内山浩文さんは、勝つことの他にも、価値を創造し続けることが「アスリートの新しいキャリアになる」と語る。

シャイニングアークスが実践している少し変わった企業スポーツの取り組みについて聞いた。

(取材・文:長田涼、編集:濵田理央)

企業スポーツに在籍するアスリートは会社への帰属意識が高い

内山浩文さん

我々のホームグラウンド『アークス浦安パーク』は2018年4月に開設され、敷地面積は約3万8000平方メートル、二つの天然芝のグラウンドと、二階建てクラブハウスなどを備える、国内でも髄一の設備を有しています。

会社として、なぜそこまで投資をするのか?それは、我々のビジネスとスポーツビジネスに相通じるものがあると考えているからです。グローバルに展開していく中でもしっかりと取り組んでいく必要がある。

NTTコミュニケーションズは、ビジネスをグローバル展開する中で、世界中にお客様がいます。お客様も社員も多様性に溢れています。ラグビーも同じように世界中にファンがいます。そして、ラグビーというスポーツ自体が国籍にこだわらず多様性を尊重する精神が根付いています。企業がラグビーチームを持つことで、多様性を重視した企業だと海外からも認識されやすくなるメリットもあるとも感じています。

我々のホームグラウンドがある浦安市は「生涯スポーツ健康都市宣言」をしている自治体です。企業と自治体の後押しのもと我々シャイニングアークスの活動ができているのです。

試合に臨むNTTコムの選手(手前、2016年)

このような環境の中で、選手は企業スポーツアスリートとしての責任感が増しました。「自分たちへの期待があるからこそ、会社や自治体はここまでサポートしてくれている」という気持ちを感じています。例えば、選手自身が、自分たちが愛着のあるクラブハウスの部屋を掃除・管理を行うことで、以前よりも物を大事にするようになりました。

これは自分たちを支えてくださる周囲への感謝の姿勢を示すことであり、とても良いことだと思います。また、選手たちは会社員として通常業務しながら、「どうすれば自分たちが会社にもっと貢献できるか?」ということを自らが考え、自分の業務を通じて自分たちの存在価値を高めるプロジェクトを立ち上げてきました。ここでも徐々に成果をあげてきています。

企業スポーツアスリートは収入面で安定している傾向にあり、精神的な安定にも繋がっているでしょう。こうした理由から、選手たちは会社への帰属意識がとても高いと思っています。私は今年39歳になりますが、一般的にここまで会社を愛している人はいないのではと感じています。だからこそ、企業スポーツのアスリートの価値を強く感じています。

選手自身が問いを持ち、選手自身が実践する

内山浩文さん

企業スポーツは、その企業以外のスポンサーをつけることが難しく、また無尽蔵に投資できるわけでもありません。金銭的な頭打ちもいつかくるかもしれません。企業スポーツが今のままのコストセンターであり続けると企業スポーツの存続が危なくなるかもしれません。

そのため通常業務以外でも、「どうすれば会社に対して自分たちはもっと利益を生み出せるのか?」という意識を、選手たちには持ってもらうようにしています。自分たちの価値はどう表現されるのか?について選手たちが考えた結果、いくつかの方向性が定まってきました。

1つ目は、営業支援としての貢献。2つ目は、健康経営への貢献。3つ目が、地域課題への貢献、です。ラグビーを通じてこれらを生み出していくことを掲げ、ありたい未来の姿を描きながらバックキャスティングで物事を考えていくプロジェクト(未来PJ)を立ち上げています。

営業支援としては、大切なお客様との交流の場に、グラウンドやクラブハウス、ラグビーの試合を活用してもらっています。会社内の健康経営への貢献としては、『健康アクションウィーク』というプロジェクトを立ち上げ、社内で、就業前とお昼休み、就業後に、アクティビティの時間をつくりました。累計で1000人ほどの社員が参加してくれています。

健康に関するアンケート調査を行った結果、社員が疲れていると感じる曜日が、月曜日に多いということが分かりました。地域の方々も同じように月曜日に疲れを感じているだろうと考え、日曜日のお昼にグラウンドを開放し、土日の過ごし方や日曜の夜の睡眠時間を確保することが月曜日からの仕事には大切であることをみなさんに気づいていただくためのイベント「健康アクションデイ・月曜日の朝を元気に!」も開催しています。

働き方改革というよりは、働くまでの改革といったところでしょうか。こちらのイベントは日本経済新聞社様、大塚製薬様ともタイアップにより実現しましたが、イベント運営などにおける社員としての活躍ぶりをご覧になった協業企業様からも「NTTコミュニケーションズのアスリートは、現役引退後も即戦力な社員として活躍できる!」と太鼓判を押されております。

このような取り組みを通じて、選手自らが、アスリートでもあり、会社員でもあるという自分たちの価値を拡げていきました。また、健康経営を通じた地域課題への貢献としても、グラウンドを開放し、住民のみなさんの健康増進を選手がサポートする取り組みなども実践しています。

その他、これまでにさまざまな取り組みを企画・実施しましたが、いずれの取り組みも選手たち自らが、会社での存在感を高める活動を「実践できた」という経験をすることで、選手たちのマインドも大きく変わったと思います。普段の社員としての通常業務だけでなく、営業支援や健康支援とできる幅を広げていくことで、会社員としても自信がついたということですね。

企業スポーツのアスリートは「働き方」の1つ

内山浩文さん

今の日本の企業スポーツの仕組みを、海外のチーム関係者や選手に話すと、「それめっちゃ幸せじゃないか!ラグビー終わっても、会社に仕事があるんだろう?」という反応をされます。 

この反応を見て思うのが、日本として、この企業スポーツの在り方を、もっと大切にしていかないといけないということです。要は企業スポーツのアスリートは『働き方の1つ』だと思っています。

選手たちは、選手たちは、普段の厳しい練習や試合から、リーダーシップやキャプテンシーを身に付けていきます。その培ったスキルを、所属する会社や、所属会社と関わりのある自治体に還元できることができれば、街づくりや地方創生、地域の課題そのものにも解決策を見いだせていける可能性もあります。自分ごととして取り組むことができれば、企業アスリートとしてだけではなく、ビジネスマンとしての価値も高まり、周囲への貢献が増すように私は思うのです。人を幸せにする、副業ならぬ「福」業の実現も可能だと考えています。

そのような可能性を考えながら自分でキャリアを見出し、「アスリートとしてこういう働き方もできるんだよ」という事例を、東京オリンピックまでに作っていければ、企業スポーツや、そのアスリートの価値を世界に発信できる大きなチャンスになると思います。

スポーツ×ビジネスのハイブリッドが、新しいキャリアをつくりだす 

そうしたことを実現するために、選手に期待することは、「一芸を大事にしてほしい」ということです。一芸に秀でた人は、その過程で様々な方と結びつきを持っています。

企業や周囲も、そのような選手たちを大事にしていかないといけません。元オリンピック選手が引退後に講演する際、「あなた達は現役時代に稼いでいたからいいでしょ!登壇料無料にしてくださいよ!」と、主催側に言われることもあるそうです。競技を引退した後でも、アスリートとしての価値がしっかり受け入れられるような仕組みができればいいなと思いますね。

昨今、会社員の健康推進が声高に言われていますが、実はここに、アスリートのネクストキャリアのチャンスが眠っていると思います。社員を健康にしていくことは、会社のためになるのですから、間違いなく価値はあります。怪我やコリ防止のためのストレッチ手法や、栄養や体調管理についてなど、選手の知識やノウハウが活かせると思います。今後もスポーツの力で、何か新しいものを生み出していければと思っています。

アスリートの価値を、スポーツではないところでも活かしていくことができるのが、企業アスリートだと思っています。ビジネスの場でも、街づくりの場でも、様々な活用ができると確信しています。

アスリートが、プロになるか、プロを諦めてビジネスマンになるか、という極端な選択しかできない状況がある中で、ハイブリットとしての企業アスリートが、もっと世の中に広がっていけばいいですよね。人は色々な面を持っていて、それぞれに居場所を求めています。それを、企業スポーツが実現できればいい。それこそが、新しいアスリートのキャリアになると信じていますし、私たちのチームがそうした姿を見せていきたいと思っています。

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スポーツ体験がどんどん変わり、多様化しています。運動が得意な人以外も、触れるチャンスが身近に増えています。

これからのスポーツは、だれもがもっと気軽に関わり、アスリートやサポーター、地域の一員として、それぞれの立場や方法で楽しめるようになるかもしれない。そんなスポーツの魅力や可能性を、みなさんと一緒に考えていきます。

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第1弾:「スポーツの”後世に残す価値”は競技場ではない」 FIFAコンサルタントらが語り合う

第2弾:誰かのせいにしてしまいがち。そんな社会を変えたい。Jリーグの米田惠美理事は訴える

第3弾:「ラグビーにヒエラルキーはない」組織委の本田祐嗣氏が、『ワールドカップ2019』前に知ってほしいこと

第4弾:スポーツの“苦手意識”を、データの力で学ぶ意欲に。慶應大院教授が、小学校の体育で実現したいこと