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アルゼンチンが“デフォルト”を回避する日 ~「eペソ」を導入できるのか?~

Macri,アルゼンチン
(画像=SC Image / Shutterstock.com)

はじめに

米中貿易摩擦が新たな局面を迎えた。我が国のパナソニックがその典型であるが、各社が華為技術(ファーウェイ)との取引を停止する旨公表したのである。本稿執筆時点(23日)では一服してしまったわけであるが、このような米中間における“角逐”の間で高騰してきたのが仮想通貨だった。その仮想通貨マーケットにおける高騰の背景には中国投資家の動きがあったことは度々報道されている。

(図表1 急騰した円ビットコイン・レート)

図表1 急騰した円ビットコイン・レート
(画像=コインデスク)

他方で中国の国営銀行である中国銀行(Bank of China)の幹部が中国人による仮想通貨の「保有」が依然として合法であると強調したことで再び仮想通貨マーケットの動向に注目が集まっている。しかしこの仮想通貨マーケットの高騰下において動いていたのは中国だけではない。ベネズエラで「ペトロ」、イランで「eリヤル」といった法定ないし公的機関が主導する仮想通貨の普及が進展している一方で、にわかに仮想通貨熱が高まっているのがアルゼンチンである。 その背景の一員には、同国に再び“デフォルト(国家債務不履行)”の影が忍び寄っていることがある。中南米への主要投資国は英国にドイツ、スペインであるが、アルゼンチンの場合にはさらにイタリアが含まれる。したがって国際金融の観点から見ると、中南米危機は欧州危機なのである。同国はいずれもBREXITやドイツ銀行問題、カタルーニャ独立問題など問題を抱えている中で、欧州情勢をより深刻化させる可能性があるというわけだ。本稿は深刻な状況に陥りつつあるアルゼンチン情勢を仮想通貨との関係を交えて分析する。

“デフォルト”タンゴを再び踊る日 ~何が起きているのか~

アルゼンチンは建国以来、合計8回ものデフォルトを経験してきた。読者には2001年のデフォルトが印象深いかもしれないが、5年前(2014年)にもその21世紀の1年目に生じた不幸が原因となって「テクニカル・デフォルト」と呼ばれるある意味では特殊な“デフォルト(国家債務不履行)”に陥ったのだった。

それがここにきて再びアルゼンチンの金融マーケットが危機に陥りつつある。今年4月下旬にはアルゼンチン債の米国債に対する利回りスプレッドが1,000ベーシス・ポイント(10パーセント)近くにまで至っており、またその先月(3月)のインフレ率も前月比4.7パーセント、昨年比54.7パーセントと深刻な水準にまで達している

(図表2 増大し続けてきた米国債利回りとアルゼンチン債利回りのスプレッド)

図表2 増大し続けてきた米国債利回りとアルゼンチン債利回りのスプレッド
(画像=Bloomberg)

これと同タイミングで対照的に進んでいるのが、アルゼンチンにおける仮想通貨の導入なのである。まず昨年から仮想通貨ATMの導入が進んでいるのである。昨年中までに30台が導入され、そして次いで今年中までには1,600台が導入される予定なのだという。また銀行といった機関投資家レベルでもビットコインを利用した国際決済サービスの開発を進めているのである。直近の5月中旬週にはベネズエラやコロンビア、そしてアルゼンチンの仮想通貨取引量も大きく増大したと報道されており、一般消費者(投資家)による仮想通貨の受容が進んでいることは明らかなのである。

それ以上に注目したいのが、中国の大手仮想通貨業者であるバイナンスが法定通貨に対応した仮想通貨取引所の開設を巡りアルゼンチン政府と契約を交わしたのだ。これに前後してブロックチェーン技術に関する40のプロジェクトに対して同政府が投資を行う旨公表していることも見逃せない。

確実に“デフォルト(国家債務不履行)”へと進む中で、官民そろって仮想通貨への退避が進んでいるというのがアルゼンチンの現状なのである。

おわりに ~アルゼンチンが「eペソ」を導入できるのか?~

ベネズエラが「ペトロ」を導入したように、大きなインフレーションが進むアルゼンチンが法定仮想通貨に舵を切る可能性もゼロではないのは、前述したようにアルゼンチン政府が仮想通貨取引所の開設を整備していることからも明らかである。ではアルゼンチンが法定仮想通貨(本稿での仮称として「eペソ」と呼ぶ)を導入できる可能性はどの程度存在するのだろうか?

このような法定仮想通貨を導入するに当たって重要なのは、仮想通貨のボラティリティーの高さをどのようにして抑えるのかである。最も簡単なのは「ペトロ」がそうであるように別の資産を担保として用いることである。専門家以外では知られているとは言い難いが、アルゼンチンは鉱物資源に恵まれた国である。未開発の銅や鉛、亜鉛鉱石が多数存在することが知られているのだ。更に金や銀の採掘も進んでいることが知られている。またフォークランド諸島にも海底油田・ガス田が存在することが知られており、米英仏蘭西の石油メジャーがその開発に参画する旨、去る18日(ブエノスアイレス時間)に公表されているのだ。

但し注意したいのが、鉱物資源がいずれもチリとの国境付近やパタゴニア地方に集中しているという点なのである。すなわち、チリとの対立が悪化すればたとえ埋蔵量が多かろうともその採掘可能性が減退することから、それらの資源を担保とした仮想通貨はその価値の正統性を失うのである。ベネズエラの「ペトロ」が失敗しているのも、結局その価値の裏付けになっている油田が“存在しない”旨、ロイターが報道したことにその大きな理由を求めることが出来ることを想起すべきである。

もう一つ注目したいのが、キルチネル前大統領の動向である。現在、収賄容疑で逮捕されている同元大統領であるが、実は現在、副大統領候補として立候補する旨、先日公表したばかりなのである。マクリ現大統領は昨年IMFへ“デフォルト(国家債務不履行)”回避のために緊急融資を要請し許諾されたのだが、それがアルゼンチン国民に2001年のトラウマを呼び起こしているのだ。そのため反マクリということでキルチネル前大統領が復権する可能性も想定すべきであり、その場合、同元大統領が仮想通貨取引を差押えにかかるのか、それとも推進するのかが大きなポイントになるという訳だ。

(図表3 10件の贈収賄で裁判が開始される予定でもあるキルチネル前大統領)

図表3 10件の贈収賄で裁判が開始される予定でもあるキルチネル前大統領
(画像=MercoPress)

キルチネル前大統領はいわゆるペロニズムの体現者としてアルゼンチンの資本主義者や自由主義者からは嫌悪されてきた。アルゼンチンが19世紀の栄華を取り戻すことになるのか、それとも2001年の悪夢を繰り返すことになるのか、注目していきたい。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

大和田克 (おおわだ・すぐる)
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー。2014年早稲田大学基幹理工学研究科数学応用数理専攻修士課程修了。同年4月に2017年3月まで株式会社みずほフィナンシャルグループにて勤務。同期間中、みずほ第一フィナンシャルテクノロジーに出向。2017年より現職。