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アメリカの恐れる中国の最先端技術、その現状を深圳で見た

ジェネシスの深圳工場にて、藤岡社長と

中国・深圳に到着したのは、おりしも深圳を本拠地とするファーウエイが「アメリカは我々の5G進出を阻止しようとしている。アメリカ政府を告訴する」と会見を開いた3月7日だった。ハイテク技術をめぐる米中の仁義なき覇権争い。アメリカがそこまで恐れる中国の先端技術の現場はいったいどんな状況なのか、「サンデーステーション」で取材をした。

「たまに(深圳に)来る人がだいぶ変わったな、というレベルじゃないんです。住んでいても、地下鉄ができてる、とか高速鉄道が乗り入れてる、とかWeChatでバスに乗れるとか、毎日驚くようなスピード感で街が進化している感じ」

というのは、8年前に深圳で電気製品の工場を設立した「ジェネシス」の藤岡淳一社長だ。当初はモノづくりの街というイメージがあり、部品のサプライチェーンが豊富ということから深圳を選んだのだが、この10年で政府がハードウエアから大きく舵を切った。スタートアップに投資してエコシステム構築に力を入れるなど、いわゆるサービスやアプリケーションといったソフトウエア分野に注力し始めたのだ。その変化の一部始終を肌で感じてきたのが藤岡社長である。

「まずはプラットフォームを、という考え方があって、やはりアメリカが恐れているのは、中国の莫大なビッグデータから繰り出されるAI技術なんですよね。日本やアメリカも『個人情報は守るもの』という考えがありますけど、中国の人は便利の代わりに個人情報を提供する。そもそも守るものだと教えられてない。

14億人が自らのデータを捧げることによって、プラットフォーマーがビッグデータをどんどん巨大化して、より高度なAIが生まれるというのは、中国ならではだと思います」 

深圳がある広東省では、去年1月から9月までに172万社が新たに起業した。その多くがハイテク分野と見られ、技術革新にしのぎを削っている。私が訪ねたのは自動運転車を開発している「ウイライド」だ。

ウイライドの自動運転車

 驚いたことに、開発中の自動運転車が公道を走っている。私が乗った自動運転車も、交通量の多いフリーウエイに入り、乱暴な運転をする車や割り込んでくるバイクに、自動でスピード制御しながら対応していく。乗っているほうは相当心臓に悪いのだが、ハプニングが起きるたびに、実践で得た情報をその都度AIが学習して進化するのだという。ウイライドの張力COOによれば「10年後には完全な自動運転が実現し、タクシーだけではなく個人の乗用車にも広げる」とのこと。

道路だけではなく、空でも開発は行われていた。ファーウエイと5G分野で共同研究を進めるドローン開発企業の「イーハン」だ。試しに携帯アプリを使って、ランチをオーダーすると5キロ離れた店から、ドローンで宅配されてきた。渋滞もなく10分ほどで届くので、頼んだチャーハンもスープもホカホカだ。イーハンが目指しているのは有人ドローンを使った空のタクシーである。乗ってみると一人でもかなり手狭だが、パイロットは不要で、コントロールセンターからの遠隔操作で飛行をするという。

イーハンの一人乗り有人ドローン

今回の取材で見えてきたのは、中国といえば一党支配で統制社会というイメージだが、こと技術開発については、統制という大きなくくりの中で、とてつもなく自由な開発特区を設けて技術革新を進めている姿である。そして、開発の中核を担うのは、海外の大学や企業で知識や技術を学び、中国に戻ってきた「海亀族」と呼ばれる若者たちだ。政府は人材計画を打ち出し、彼らに住居や資金面の援助をして呼び込んでいるのである。企業のトップも技術者で、エンジニアの評価•給与がすごく高いという点はアメリカとよく似ている点だ。

中国は技術を盗み、個人情報も盗むと締め出しに躍起なアメリカ政府。それについてウイライドの張力COOに聞くと、「私たちは2年前にアメリカのシリコンバレーで起業して、その後中国にグループ本社を設立しました。シリコンバレーの道路はまっすぐで広い。私たちは自動運転車を中国の道路のように最も複雑な環境で試したかったのです。それが中国に帰ってきた理由です。貿易摩擦で人材交流を限定してはなりません」と話す。 

藤岡社長は言う。

「そもそも中国の人たちはフェイスブックもグーグルも使えません。一方、それがなかったおかげで、WeChatやアリババのようなプラットフォーム、アリペイ決済などを作り出した。アメリカの技術が使えないからこそ中国独自の技術が発達して、今ではその恩恵を中国以外の、例えば東南アジアや南アフリカといったところに提供しようと動いています。

つまり、アメリカのプラットフォームなしでここまで成長してきているわけですよね。

アメリカの制裁や締め出しがきっかけで、技術や開発の投資に拍車がかかって、余計に中国を育ててしまう可能性もあるのかなと感じています」

例えば車のエンジンひとつとっても、他国が何十年もかけて築き上げてきた技術を中国が追う時代ではない。飛び越えて一気にバッテリーカーや電動EVに莫大な投資をし、独自の技術開発をしてしまう時代である。

「守らなきゃいけない産業のある国、捨てられないものがある国はスピードで負けてしまう部分があると思います」という藤原社長の言葉に日本のことを考えた。今後も激しさを増していくであろう米中摩擦のさなかにあって、日本も既得権益を見直し、新しいイノベーション開発への投資を充実させていくなど、抜本的な構造改革が必要なのではないか。果たして、日本はどのように闘っていけばよいのだろうか。深圳から日本を見る藤岡さんは日本の未来を見据えて、自身の目標を考えている。

「そもそも0を1にするイノベーションというのは日本やアメリカの仕事でした。いわゆる半導体、科学分野、遺伝子とかさまざまなアルゴリズムやアーキテクチャーといった部分ですけど。日本は優先順位を見極めて、日本が強かった部分をもっと磨き上げて、失敗を恐れるのではなく、何度でも挑戦できる環境が必要です。私も深圳の比較的軽いIOTというか、少ない投資、開発費で気軽にIOT、ICTできるように、日本のベンチャー企業、スタートアップをバックアップするようなサービスを続けていきたいと思っています」