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もはや先駆的。ミドルエイジが切り拓くInstagramの新たな使い方

3年ほど前、私が社会人1年目の頃だろうか。

とあるレストランで運ばれてきた一皿目に取りかかった瞬間、隣から聞こえたスマホのシャッター音に私は驚いた。一緒に食事をしている5つほど年上、20代後半の男性が料理の写真を撮っていたのだ。

「あ、この人は写真撮っていいノリなんだ」とホッとし、それから運ばれてくる料理は私も写真を撮るようになった。当時はかしこまった場やお店で写真を撮るのはなんだか憚られたし、もし相手に「インスタ映え?」と笑われたらどうしよう、という不安が先行し、なかなかスマホを出せずにいたのだ。さらに驚いたのは、その男性が写真に綺麗な加工をして後日Instagramにアップしていたことだ。男性でも年上の人でも、気軽に写真を撮るようになったのだなあと感動したのを憶えている。

この「今、写真を撮っていいのか問題」について同年代の友人に話してみると、同じような経験をした人が何人もいた。たった3年ほど前までは、写真を撮るにもその場にいる人たちの年代や空気を注意深く読む必要があったのだ。

今は「スマホで写真を撮る」という行動自体が性年代かかわらず浸透していて、「インスタ映え(笑)」と揶揄されることは少なくなった。綺麗なもの・面白いものにレンズを向け、それをSNSにアップするのは年代を問わない文化になっている。

実際に、株式会社ジャストシステムが発表している2018年のInstagramの年代別ユーザーデータを見ると、30代の4割弱、40代の3割強がInstagramを利用しており、50代でも利用者は4人に1人の割合にのぼる。

もはや「スマホでパシャ」の行為も「Instagram」も“若い女子”のものだけではない。男性や、ミドルエイジ以上の方々にも広がっている行動文化なのだ。

私が研究に参加している博報堂生活総合研究所では、現代における“みんな”の有り様を研究し、その成果を、連載「#みんなって誰だ」で発信している。SNSも今の時代の“みんな”を語る上で外せないものだが、特にInstagramはここ数年で「若い女子のSNS」から「性別も年代も問わないSNS」に大きく変貌しつつある。

今回は40代以上でInstagramを使いこなしている方々、3人へのインタビューの中から、そのようなインスタ・ニューカマー達がどのような新しい文化を、この若い女子の牙城だったSNSにもたらしつつあるのか、そのヒントを探っていきたい。

「インスタはコラムニストへの第一歩と語る、40代のキャリア女性」 

最初にご紹介するのは「バリキャリ女子のこじらせコラム(@makikokawamura_)」というアカウントで1.8万人のフォロワーを抱えている、まきこさんだ。まきこさんは、外資系投資銀行で働きながら高校生の娘をもつ母親でもある。

ホームのアーカイブ(ストーリーズの保存版)には海外旅行や広々とした自宅のクローゼットの写真が並ぶ一方、フィードは自分や友人、娘の写真や、よく見るフリー素材の写真が投稿されている。フリー素材の写真には、ジェンダーや教育に関するコラムが書かれており、その反応として様々なコメントが連なっている。

 

 「インスタの存在を知ったとき、これは将来、意見発信のプラットフォームとして活用できるなって確信があったんですよね」と彼女は当初の企みをこう語る。

外資系投資銀行というハードな環境で働く彼女は、今の会社でずっと働き続けられる保証もなく、自分の次の仕事の場としてInstagramに目をつけた。いつでも無料で宣伝できるような個人のメディアとして活用しようと考えていたという。 

初期の頃は、ハイブランドのバッグや高級ホテルの宿泊の写真など、豪華な生活ぶりを発信して戦略的にフォロワーを伸ばし、フォロワーがある程度増えた頃から徐々に投稿のテイストを切り替え、今の「社会派」芸風にシフトしていったという。現在、初期の写真は削除済みだ。

「Facebookだと知り合いにしか発信できないし、Twitterだとジェンダー視点は叩かれやすい。その点、Instagramって炎上しにくいし女の子、つまり自分に共感してくれる立場の人が多いからやりやすいんです。」

彼女のInstagramの使い方は、一般的なそれと明らかに異なっている。写真を見せるというよりも写真をフックに自分の意見発信の場に人々を集め、自由な意見交換の場として活用しているのだ。

「社会的なことばっかり書いていても飽きられるので、みんなが興味をもつような美容法やグルメの情報も小出しにしていってます。いつかコラムニストになりたいって願望もあるんですよね。女性のより良い社会を作ろうっていう思いは常にあります。私の中でライフワークになってます」

コメント欄ではたまにひどい言葉で罵ってくるアンチも出現するが、一人ずつブロックしているという。戦略的にフォロワーを伸ばしながら、顔も知らない人たちと自由な意見を交わしているまきこさん。彼女は色々な価値観に触れることを純粋に楽しんでいるように見える。

「インスタを自身のメディアでありひとつの生きがいと捉える60代トラベラー」

続いては、1600人のフォロワーを抱える「T.T.TANAKA(@tokyotowertanaka)」さんだ。

 「僕はね、インスタグラムの活動はタスクだと思って自分に課しているんです」

ニコニコ笑いながら自分の活動について語る彼の顔を、思わず見返す。

T.T.TANAKAさんのホーム画面にはヨーロッパ、中南米、南アジアなど異国の鮮やかな風景が広がっている。日本では見慣れない建築物や街の景色や石畳の上でくつろぐ猫、道ゆく人々のある一瞬をとらえたそれらの写真は、2017年12月から2440枚にも上る(2019/5/28現在)。

2017年3月 に企業の役員 をリタイアし、趣味の旅行や写真を楽しむ優雅なセカンドライフを送っているように見えるTANAKAさんだが、その生活は一つ重要なものが欠けていたように感じると言う。

「会社に属していた時は、社会と繋がっていたし、目標も毎日やることもあった。でもリタイアして以降、僕はソーシャルから断絶されてタスクを失くしてしまったのです。」

たしかに人は子供の頃からいくつものタスクを持っている。学校、部活、勉強、受験、仕事、家庭……。それらから解放されるということは、人によっては手持ち無沙汰で張り合いのない人生が続くことだとも言い換えられるだろう。

元から趣味で写真をよく撮っていたTANAKAさん。Instagram は「自分の写真のファンづくり」のプラットフォームとしての役割もあるという。「TANAKAさんの写真っていいね」と自分の撮るものに共感してくれる人が一人でも増えればいい、と話す。

 

「タスクはただ好きなことをやるのではなく、習慣化できるようなものがいいですね。FacebookやTwitterと違って写真一枚で投稿が成り立つInstagramは、タスク化に向いているのかもしれません。引退後でも、インスタ一枚とろうって思ったら散歩に出かけるし、外の世界に出ようって思うんじゃないかな」

今の時代はハッシュタグや場所の検索によって自由に世界と繋がれる。手のひらのスマホで世界中のギャラリーにアクセスできる感覚です、と彼は話す。Instagramは自分で創り出すタスクであり、世界中の人々や作品とつながる回路にもなるのだ。

「撮りためたアルバムで大切な家族の自己実現を叶えた親子(30代・60代)」

3人目は、1.8万人以上のフォロワーを抱える63歳の「MASAKO(@masako_kojima_desu)」さんだ。シニア世代の新たなインスタグラマーなのか?と思いきや、このアカウントは娘のももみさんが自由に母MASAKOさんの写真を撮って投稿しているだけのアカウントだという。

モード系のファッションや鮮やかでポップなアクセサリーを楽しんでいるMASAKOさんはまさにモデルのようだが、服は昔自分で買ったもので、アクセサリーはほとんどがハンドメイド。実はこのアカウント、昨年の冬まで10人足らずだったフォロワーが一晩にして1万を超えたという。

「ひと月に一回、母(MASAKOさん)に会うとき、自分の楽しみのためだけに母のファッションを写真におさめていたんです。写真をLINEで送ると母も喜びますし。久しぶりに会ったとき、パーマをかけて進化していたんです。ヨージヤマモトのワンピースも似合ってましたし。素敵だなって思って自分のフォロワー120人のTwitterに載せたらどんどん拡散して……あまりにも通知が来るのでアカウントを乗っ取られたのかと慌てちゃいました(笑) それでInstagramのアカウントも載せたら見てもらえるのかなと思って紐づけて投稿してみたらみんなInstagramもフォローしてくれたんです」

母のMASAKOさん曰く 、昔はなかなか好きな服を着られなかった、という。地元で変に目立つことを避けており無難な服で我慢していたが、10年ほど前に気が滅入ってふさぎこんでしまったとき、医者に「自分の好きなようにすればいい、解放しなさい!」と言ってもらえて、ようやく私は私でいいのだ、と気づいた、と。それ以来MASAKOさんは徐々に自分の好きな服を着るようになり、自分自身を解放していったというのだ。

 

フォロワーが増えて以来、Instagramの毎投稿にいろんな人からのコメントがつくようになった。ファッションやメイク、髪型を褒めるものや、「私もこういう年の重ね方をしたい!」という共感・憧れまで。

MASAKOさんは親戚や他の人には白髪染めを勧められ続け、“普通のシニアっぽい”スタイルに落ち着いたほうがいいのかと悩んだこともあったというが、Instagram上ではその綺麗なグレイヘアへの賞賛にあふれている。Instagramがきっかけで大手のライフスタイル誌「暮らしの手帖」にMASAKOさんの全身写真が掲載されるという嬉しいサプライズにもつながった。

娘のももみさんは柔らかい表情でこう語ってくれた。

「素敵ですねって言ってくれる人がこんなにたくさんいて、ああやっぱり私の思ってる通りお母さんはチャーミングでかっこいいんだなって嬉しくなりました。自分でアクセサリーや服を作ってファッションで表現してきた母を見ているので。これからもへんてこなアクセサリーをもっともっとつくって、好きに生きてほしいです」

ももみさんにとってInstagramは素敵なお母さんの瞬間を蓄積していくアルバムであり、大切な人の自己実現を叶える場でもあるのだ。

中高年インスタグラマーの実態からは、普段私たちがInstagramに抱きがちな、いわゆる「映え」を追い求めるイメージには留まらない側面が見えてくる。使う人と活用方法によっては画像をフックにコラムの発信先や議論のプラットフォームになることもあれば、リタイア後のタスクづくりや世界との接点を担うこともある。そして自分や大切な人の自己実現を叶える場にもなりうるのだ。

Instagramは若年女性だけのものではなく、老若男女が各々自由に使うユニバーサルなSNSになりつつある。そこで見出されているのは、単純な承認欲求を超えて、私たちの可能性をもっと自由に広げるための回路なのかもしれない。

この記事を執筆したのは…

信川絵里/博報堂 第一プラニング局 リサーチャー

 2016年博報堂入社。飲料・食品・トイレタリー・webコンテンツなど諸分野での戦略立案、商品開発、コミュニケーション設計に従事。また「博報堂キャリジョ研」のメンバーとして働く女性の生態やインサイトを研究している。