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なぜ「コンセプチュアル・スキル」が優れた意思決定に欠かせないのか?

(本記事は、陰山孔貴氏の著書『ビジネスマンに経営学が必要な理由』=クロスメディア・パブリッシング、2019年2月1日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

ビジネスマンに経営学が必要な理由
(画像=ビジネスマンに経営学が必要な理由※クリックするとAmazonに飛びます)

ビジネスマンが変化に強い人材となり、これから先においても価値を発揮し続けるためには、次の3つのシフトが必要だと考えていると説明しました。

1.「問題解決能力」から「問題発見能力」へのシフト
2.「テクニカル・スキル」から「コンセプチュアル・スキル」へのシフト
3.「勉強する」から「学問する」へのシフト

本記事では2つ目の、「「テクニカル・スキル」から「コンセプチュアル・スキル」へのシフト」についてお話をしていきたいと思います。

シフト2 「テクニカル・スキル」から「コンセプチュアル・スキル」へ

2つ目は「テクニカル・スキル」から「コンセプチュアル・スキル」へのシフトです。

具体的な問題を解決できるようなテクニカルなスキルだけでなく、曖昧なコンセプトを理解できるスキルが変化への適応力を高めます。

米国の経営学者、ロバート・L・カッツ先生によると、ビジネスをうまくいかせるためには3つのスキルが必要だと言われています。それが、「テクニカル・スキル」、「ヒューマン・スキル」、「コンセプチュアル・スキル」です。

テクニカル・スキルとは、「特定の活動、特に手法、プロセス、手順、あるいはテクニックとかかわりあう活動を理解し、それに熟達していること」であり、ヒューマン・スキルとは、「人と関わって物事に取り組むときに必要となるスキル」のことであり、コンセプチュアル・スキルとは、「組織の諸機能がいかに相互に依存し合っているか、またその内のどれか一つが変化したとき、どのように全体に影響が及ぶかを認識することであり、個別の事業が、産業、地域社会、さらには国全体の政治的、社会的、経済的な力とどのように関係しているかを明確に描けること」を指します。

テクニカル・スキルがあらかじめ設定されている特定の問題を解決する能力であるのに対し、コンセプチュアル・スキルは解くべき問題を発見し、設定することができる能力です。つまり、コンセプチュアル・スキルとは物事の関連性を捉える力と言い換えてもいいかもしれません。

物事を注意深く観察したり、メンバーのコミュニケーションを改善したりして得たあらゆる情報から、点と点を結びつけて、その関連性を導き出すことが、根源的で適切な問題を発見することにつながるのです。

不確実性の高いビジネス環境では、この能力がとても重要です。ただ、コンセプチュアル・スキルの必要性を認識している方は少なく、体系立てて学ぶ方法もこれまで伝えられてこなかったため、この能力を持っている人は貴重な存在でもあります。

立場による3つのスキルバランス

テクニカル・スキル、ヒューマン・スキル、コンセプチュアル・スキルの3つのスキルは、いずれもビジネスにおいて重要なスキルです。しかし、最初から3つのスキルとも高いレベルで有している方はとても稀ですし、その必要もありません。

ビジネスマンには階層によって、必要なスキルの使用バランスが異なります。新入社員や若手社員のときには、具体的なタスクをこなすことや業務知識を深めることなど、とにかくテクニカル・スキルを高めることが求められます。

ヒューマン・スキルは全階層であるに越したことはないスキルですが、上位階層になるにつれて組織内ヒューマン・スキルよりも組織外ヒューマン・スキルが重要になります。そして、経営者に近づくほどよりコンセプチュアル・スキルが求められるようになります。

ただし、中小企業、個人事業主など組織の規模によっては、経営者が3つすべてのスキルを高いレベルで持っていなければならない場合もあるので注意が必要です。

時代の波とスキル

人や組織に寿命があるように、ビジネスマンとして活躍できる期間というのは普通にしていると意外と短いものです。

これは、体力の衰えやテクニカル・スキルの陳腐化ということもあるでしょうが、それ以上にコンセプチュアル・スキルとヒューマン・スキルの育成をないがしろにしてきたことが大きな要因になっていると私は考えています。

社会が変化する中で、自分だけが変われなければいつかは行き詰まります。そして、その社会の変化に対応していくためには、コンセプチュアル・スキルとヒューマン・スキルが欠かせません。

長く活躍されている経営者の方やビジネスマンの方を見ていると、あるタイミングで次の一手となるようなくさびを打ち込み、そのくさびを起点として波乗りのように次から次へと時代の波に乗っていきます。その際に、コンセプチュアル・スキルとヒューマン・スキルが必要になるのです。

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(画像=ビジネスマンに経営学が必要な理由より)

例えば、私のゼミにお越し頂いた方の中に、50代後半で大手企業を退職し、ベンチャー企業の経営に参加された方がおられます。そして、その方は60代後半になると「あとは後退の若い者がやればいい」と自分が立ち上げた企業を引退し今は大学の学長をされています。この方も高いコンセプチュアル・スキルとヒューマン・スキルをお持ちです。

コンセプチュアル・スキルを獲得するには?

ここまでコンセプチュアル・スキルの重要性を述べてきました。ではこのスキルを獲得するためにはどうしたらいいのでしょうか。

いきなりレベルの高いコンセプチュアル・スキルを持ち合わせることは難しいことです。確かに、極稀に天才な方がいて、それを人生の早い段階で有している方がいますが、多くの方にはそれは意図的なトレーニングをしなければ獲得できないスキルでもあります。

実際、コンセプチュアル・スキルの特徴として、何もないところにつくりあげていくことは難しいという特徴があります。何のテクニカル・スキル、ヒューマン・スキルも持っていないけれども、優れたコンセプチュアル・スキルだけはあるということは、あまり考えられません。

つまり、逆説的ですが、テクニカル・スキル、ヒューマン・スキルのトレーニングを先にして、それを細かく積み上げていくことによって、優れたコンセプチュアル・スキルを獲得していくということになります。

この3つのスキルの特徴として注意すべき点は、これら3つのスキルは決して横並びのものではなく、階層状態となっている点にあります。テクニカル・スキルが最下層にあり、その上にヒューマン・スキルがあり、一番上にコンセプチュアル・スキルがあるという階層構造になっています。

つまり、基本的にはテクニカル・スキル、ヒューマン・スキルがあってコンセプチュアル・スキルを獲得できるのです。

人をワクワクさせる力

多くのできる経営者やビジネスマンの方とお会いしてきて思うことは、筋の良い戦略を立てて、その戦略を動かすためには、コンセプチュアル・スキル、ヒューマン・スキル、テクニカル・スキルの全てが必要だということです。

特に、コンセプチュアル・スキルは、「人をワクワクさせる力」でもあります。満たされた現代に求められている力はこの「人をワクワクさせる力」です。

たとえば企業が経営不振に陥っている場合、問題が山積していて、「何が問題なのかがわからないのが問題だ」という状態になります。ここで高いコンセプチュアル・スキルを持った経営者、ビジネスマンの方ならば、「われわれの進むべき道はこれだ!」と方向性を打ち出すことができるはずです。

それを聞いたまわりの人々は「なるほど」、「そうですよね」と納得して元気になり、「よし、それでいくか!」と突き動かされる。そういうことを実現できるのが、コンセプチュアル・スキルです。

これからのビジネスマンにとって、このスキルが重要であることは間違いありません。それに加え、ヒューマン・スキル、テクニカル・スキルももちろん大切であり、この3つのスキルをバランスよく持ち、高めていくことが必要になります。

ビジネスマンに経営学が必要な理由
陰山孔貴(かげやま・よしき)
獨協大学経済学部経営学科准教授。博士(経営学)。1977年大阪府豊中市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修士課程を修了後、シャープ株式会社に入社。液晶パネル事業の経営管理、白物家電の商品企画、企業再建等に携わる。同社勤務の傍ら、神戸大学大学院経営学研究科専門職学位課程、同博士後期課程を修了。獨協大学経済学部経営学科専任講師を経て2017年より現職。2018年より早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター技術経営研究部会招聘研究員も務める。

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