富裕層・投資家の「今と先」を伝えるキュレーションサイト

「自分らしさ」を認め合える職場へ。セールスフォース・ドットコムが実践する組織を「家族」にする施策とは

Ohana(オハナ)という言葉がある。ハワイ語で「家族」を意味するが、血縁の有無や世代を超えた「拡張的」な家族を表す考え方だという。

そんなオハナの概念を企業理念に取り入れる会社がある。「セールスフォース・ドットコム」(本社・アメリカ・カリフォルニア州)だ。

社員同士、さらには社外との新しい「つながり」を模索する同社のオハナ的仕事観とはどんなものか。

日本法人設立の2000年から勤め、同社のそのカルチャーを伝承する役割を担う仲澤輝宏・常務執行役員に聞いた。

独自の文化「Ohana」とは

セールスフォース・ドットコムは世界15万社以上に顧客情報管理システム(CRM)を提供しており、創業は1999年だ。

オハナを会社のコア理念として根付かせたのは、創業者で共同CEOのマーク・ベニオフ氏。ハワイの精神・文化に共感し、1年の数カ月以上をそこで過ごす。そんな中、この言葉に出会った。

「家族」というと、日本では血縁に基づいた関係がイメージされがちだ。「会社」と結び付けば、「一族経営」などの言葉も連想される。

だが、オハナはもっと広い概念だ。親しい友人や仲間とも「家族」としてつながり、積極的に互いに助け合う。セールスフォース・ドットコムでは、従業員はもちろん、取引先や顧客、地域など、同社とかかわる全ての人々をそのコミュニティーの一員としてとらえる。「かつてはベンチャー気質だった当社ですが、事業規模はどんどん拡大しています。さまざまなキャリアや背景を持った人材が入社してくる中で、オハナは結束力を高める基盤となっています」。仲澤さんはそう話す。

多様な個人による「家族」を実現するために

オハナの精神を理想論にとどめず、社内に定着させるため、同社が大切にしている価値が「平等」だ。

人によって、個性や価値観、働き方が異なるのは当たり前のこと。そんなバラバラな個人が「家族」としてつながるためには、どのような立場にあっても自分自身に価値があると感じられ、その声が尊重されている安心感を得られる環境が欠かせない。

そうして初めて、個人は組織に帰属意識を持てる。

「全員が自分らしくいられて、かつ相手のことも尊重できることが大切」と仲澤さんは言う。

そのために同社は、「平等のために欠かせない4つの柱」を掲げ、会社の制度、日々の業務やコミュニケーションに落とし込んで実践している。

「平等」を実感として定着させる

具体的な取り組み事例を紹介する。まず、従業員自身が主導して運営する「オハナグループ」がある。

障害を持つ従業員やその支援者などでつくる「Abilityforce(アビリティーフォース)」、LGBTQの従業員とアライたちでつくる「Outforce(アウトフォース)」、環境に優しい社会のあり方について考える「Earthforce(アースフォース)」など、テーマごとに多数のグループが組織されている。

人数や活動内容はそれぞれ異なるが、多くのグループで共通していることがある。さまざまな背景を持った従業員たちが、関心を同じくするテーマでつながり、気軽にコミュニケーションを取れる機会があることだ。

勉強会のような場で語り合うこともあれば、ランチタイムを共にしたり、社内のカフェスペースで火の出ない「焚火台」を囲んだりすることもある。

肩肘張らない雰囲気で、他愛ない雑談も含めて会話を積み重ねる中で、互いへの理解が深まっていく。業務上、プロジェクトをともにする機会が少ない他部署の従業員とも、自然につながることができる。

仲澤さんは、「アビリティーフォース」の活動を支援・リードする役割を担っている。障害がある人と語り合う中、次のような発見があったという。

「例えば、視覚に障害を持つ人と話をしてみると、『エレベーターを待っているとき、どのエレベーターが先に到着したのか分かりにくい』と言うんです。その不自由は、それを知った周囲の私たちが『ここが空きましたよ』とちょっとした声かけをするだけで減らせますよね。逆に私だって、苦手とすることについては誰かの助けを借りたい。『能力や視点の違い』って、決して『どちらが上か下か』という基準で語れるものではないんです。違いを認め、尊重し合いながら助け合う意識が、各グループで会話を交わすことで『実感』として根付いていくのを感じます」

「オハナグループ」は、仲澤さんのような「スポンサー」がつく仕組みとなっているからこそ、イベント実施時に必要な予算や人員の確保もスムーズに進むという。実効性を持つ形で継続できるよう、企業としてリソースを割いているのがポイントだ。

また、同社は経営層が掲げた理念を日々の意思決定に落とし込むためのフレームワークを全従業員に公開している。会社のビジョンを、その「家族」である従業員が自分事としてとらえられるようにするのが狙いだという。

こうした仕組みに、同社の得意分野であるテクノロジーを掛け合わせれば、社内の風通しはさらに良くなる。

その例が、働く場所や立場を問わず、オープンなやり取りができる社内SNS「Chatter」(チャター)だ。

取材中、仲澤さんが早速実践してみせた。他の社員に対し、「オハナをどうとらえているか」と意見を求めたところ、あっという間に数十件のコメントが集まった。

“いいと思ったことや、感じたことをChatterなど皆でシェアできること”

“どこの会社にもありがちな、部署の壁、利害関係の壁、チームの壁。オハナってそれを全て無くしてくれるものだと感じます”

 仲澤さんは「普段の業務においても、誰かがアイデアや課題を書き込むと、その投稿を見た別の社員が次々に『こんなやり方はどう?』と意見を書き込みます。部署や役職、社内外の垣根さえも超えるコラボレーションが日常的に生まれ、PDCAを素早く回せる。結果として、ビジネス上のパフォーマンスを上げることにもつながっていると思います」と説明する。

従業員が平等に発言できる環境は、働きがいを支える制度づくりにも一役買う。

同社は在宅勤務や男女を問わない育児休暇取得の推進、不妊治療に対する手当の充実など、福利厚生面でも従業員から高い満足度を得ている。これも日頃から、現場の意見をスピーディーに経営判断に反映できる仕組みが機能しているからこそ。

一人ひとりの「声」が届き、その価値が尊重されている実感を持てる「平等」なコミュニティー。それが、同社のつくるオハナだ。

オハナの効用、社外にも

一方、オハナの「効用」は社内だけにとどまらない。取引先や顧客にも広げることで、「イノベーションが生まれる良い循環を実現できています」と仲澤さんは胸を張る。

今の時代、変化のスピードは速い。技術や製品のスペックを上げることだけを追求しても、市場にはすぐさま似たような商品が出回る。

そんな「コモディティ化」を超え、オンリーワンの価値を提供する企業として愛されるためには、「企業文化」を具体的な戦略や実践に落とし込むことが重要だ。

なぜなら、そうすることでその理念に共感する「仲間」が集まり、新しいアイデアが生まれやすくなるからだ。

それこそまさに、閉じた画一的な組織とは一線を画す「オハナ的」つながりであり、それを実践している同社にとっての最大の強みにもなっている。