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「吉本芸人は長いクサリにつながれたままだ」 岡本社長の会見では何も解決されなかった

それぞれ記者会見をした、吉本興業の岡本昭彦社長と宮迫博之さん

お笑い芸人の「闇営業」問題で、吉本興業の岡本昭彦社長が記者会見を開いた。岡本社長はときどき涙を流し、自身の減俸と、宮迫博之さんの契約解除を撤回することを明らかにした。本当にこのような形の「解決」でいいのか。

芸能人と働きかたの問題を長く取材し続けてきたライターの松谷創一郎さんと一緒に会見を振り返った。ルールをきちんと決めず、「身内」のあいだで問題を処理してきた、かつての「古い日本企業」の姿を思い出すような会見だった。

涙を流しながら、宮迫さんや田村さんに「戻ってきて」

 「改めて(宮迫さんや田村さんと)ミーティングをさせていただき、いつの日か戻ってきてもらえることがあるならば全力でサポートしたい」

 7月22日、東京都内で開かれた記者会見で岡本社長は話した。契約解除を言い渡した宮迫さんに対して、「処分を撤回」する方針を明らかにしたのだ。

 会見は5時間半続いた。松本人志さんの名前も出しながら、「芸人ファーストが実現できていなかった」「吉本は全員がファミリー」と涙をうかべた。

 宮迫さんはまだ何も発言していないが、吉本側の「温情」によって一件落着、というムードさえただよう。

涙をぬぐう吉本興業の岡本昭彦社長

「親分が動いて仲間うちで解決した」

 ライターの松谷さんはこう解説する。

 「予想通りの展開ですね。『親分』が動き出したことで、仲間うちの論理で解決するのではないかと思っていました」

 親分とはダウンタウンの松本人志さんのことを指す。松本さんは7月20日、「後輩芸人達は不安よな。松本動きます」とツイートを投稿。翌日21日のフジテレビ系「ワイドナショー」で、「吉本興業内に、もうひとつ松本興業やないですけれども、僕の部署を作ってくれ。(問題を起こすなど)やらかした子たち、イエローカードの子たちを俺が引き取るから」と申し出たことも明らかにした。 

松谷さんは「後輩の芸人を松本人志さんが『子たち』と呼んでいる時点で、体育会系の家族的な『タテ社会』だなということが分かります。それぞれの芸人達は立派な社会人であり、一人のプロです。『子たち』というのには違和感があります」と話す。

 「松本人志さんはワイドナショーで『岡本社長と宮迫が乳首相撲をやること。これですべて解決する』と冗談を飛ばしていました。親分を中心に義理や人情、そして時には『笑い』で幕引きをはかろうとしているのでしょう」

松本人志さん

パワハラを否定、「身内に言う感覚」

 そもそもこの問題のポイントは、①吉本興業と反社会勢力の関係 ②「全員クビにする」などとする岡本社長のパワハラ疑惑 ③芸人との契約が口頭である点、などだった。

 岡本社長は22日の会見でこうした疑問を次々とぶつけられた。

 ①については、タレントが反社会勢力からの写真や宴席など断りづらい場面に追い込まれた場合、相談ができる「ホットライン」を設置することで関係を断ち切っていくという。また、②については「身内の感覚で『ええ加減にせえ』という意図で言った」と明かし、パワハラのつもりはなかったと釈明した。③については、あいまいな答えで終わった。

 松谷さんは反社会勢力との付き合いだけでなく、②と③の点を疑問視する。

 「身内という言葉が象徴的です。身内だから、キツいことを言ったり自分の都合が通ったりするだろうという甘えがある。でも、今回は長年の付き合いがある宮迫さんや田村さんですら『これは違う』と思った。ジャニーズ事務所と同じですね。元SMAPに生放送で謝罪をさせたときは、きっとファンも含めて『身内』なら分かってくれるだろうという気持ちがあったが、『公開処刑』だととらえられた」

吉本興業は、反社会的勢力とのイベントの関係をパネルで説明した

 ファミリー的なノリについていけない芸人も

 松谷さんが独自に取材したところ、吉本興業の約6000人の芸人の中には、吉本の「ファミリー的なノリ」についていけない人も出てきているという。

 「松本さんの周りにいる芸人は、家族のように守られている。でもそれ以外のグループのタレントや売れていない芸人には恩恵が回ってこない。何より契約が口頭ベースであいまいなので、『自分がどの仕事でどのぐらいもらっているのか、給料の明細を知りたい』『副業が出来る時代、芸人はどこまで何をやっていいのかハッキリと教えてほしい』などの声があがっています」

 松谷さんは続ける。

 「吉本にとって、紙の契約書ではなく、口頭による当事者の合意のみの『諾成契約』の方が都合がいいのでしょう。ちゃんとした契約書がないからこそ、今回の宮迫さんのように、トップの『思い』だけで、いつでも契約を解除したり、いきなり復帰させようとしたりできる。タレントさんが他の事務所にいける『移籍の自由』があるかもわからない。すべてを曖昧にすることで、芸人さんに『長い鎖(クサリ)』をつけているのです。ある程度までは自由に動けるが、いざとなったらグイっと引っ張られる」

大崎洋会長

「契約書を超えた信頼関係が吉本らしさ」

 お笑いコンビ「ハリセンボン」の近藤春菜さんも日本テレビ系「スッキリ」の中で、「『吉本興業はどういう考えであなたとこういう風に契約しますよ』ということを私は口頭でも聞いた覚えはないですし、『会社にいくら入ってあなたの取り分はこうです』とか他の問題に関してもない」と発言していた。

 吉本の大崎洋会長は紙の契約書を本格的に導入することを度々否定している。毎日新聞のインタビューでは「100年以上の歴史の中で、契約書を超えた信頼関係、所属意識があって、吉本らしさがある」と発言している。

 吉本の大崎会長も、岡本社長も、もともとマネジャーなどの立場で、ダウンタウンの松本人志さんを支えて長年苦楽をともにしてきた。松本さんも大崎さんを「アニキ」と呼び、「大崎さんがいなくなったら僕は辞めますね」と発言している。

 ハフポスト日本版はこの日の会見で直接、岡本社長に「減俸50%」の根拠や契約のあり方を見直すつもりはないかを聞いたが、明確に答えられなかった。会見では「身内」という言葉が使われるなど、吉本は明確なルールを作るよりも、かつての日本企業のような「家族的な経営」を重んじているのかもしれない。

記者会見で謝罪する岡本昭彦社長

 日本は戦後、「終身雇用」「年功序列」など家族のような「日本型経営」を武器に成長してきた。日々の仕事を長年の信頼関係をもとにまわし、オープンなルールよりも暗黙知をつみあげて、上司や同僚らとの「貸し借り」を大切にしてきた。労働組合も、欧米で主流の企業をまたぐ労組とくらべて、会社ごとに組織する「企業別労組」が強く、労働者側も経営側も同じ釜の飯を食いながら、一緒になって成長してきた。

 ところが、こうした「日本型経営」は戦後の経済成長が終わると、ほころびが目立つようになった。グローバル化などで、経営陣を外部から招き入れたり、転職なども広まったりした。長年の信頼関係より、きちんとしたルールをもとに組織をまわすようになった。激しい競争でリストラが進むと、労使関係もギスギスして、かつての良好な関係を結びにくくなった。働き方改革も進み、社員ひとりひとりの仕事のスタイルも多様化している。

頭を下げる岡本昭彦社長

 「第三者委員会の設置を」

 松谷さんはこう話す。

 「芸人さんの世界は一般企業とは違う面もあるのは分かる。だったら芸人さんに『口頭契約』が良いのか『紙の契約』がいいのかを選んでもらえればいい」

 「6000人も芸人さんがいると、それぞれの考えがある。売れてない芸人にとっては、『いつか売れるかも』という思いがあるので、口約束をもとに吉本側にお世話になりたいという人もいる。一方、契約書できちんと期限を決めて、売れなかったらフリーになって直営業をもとに自分の力で稼ぎたい人もいる。事務所を移籍したい場合のルールづくりも文書でするべきです」

 「今回の会見で明らかになったような、減俸や宮迫さんへの処分撤回では、根本的に何も変わっていない。パワハラはあったのか、会見の希望を押さえ込んだのか。反社会的勢力との関係をどう断ち切るのか。解決策についても身内で決めるのではなく、第三者委員会を設置して、さまざまな芸人さんのニーズを洗い出し、ゼロから会社の体制を変えるべきではないでしょうか」