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「ミニマムな暮らし」という現代の流行を考える

音楽も映画も書籍も、もはやすべてデータとして保存が可能な時代。モノを所有せず、身の回りはできるだけすっきりと、というスタイルがじわじわと浸透しつつあります。その潮流について心理学者のマッテーオ・ランチーニが語ります。

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2019.3.27

男性ホルモンが豊富な人は高級志向という研究結果

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カリフォルニア工科大学の研究によると、男性ホルモンの「テストステロン」の分泌が活発な人は、高級志向であることが明らかになっています。この研究では、テストステロンを投与された人とそうでない人が参加し、アルマーニやラルフ・ローレン、GAPなどのブランドの嗜好を分析するという非常に興味深い実験が行われたのです。
テストステロンを投与された男性たちは、おしなべて高級なブランドを好む傾向にありました。ちなみに、テストステロンはオスの生殖機能や社会行動に関連するホルモンです。ですから、社会的に成功した男性たちが高価なものを所有したいというのには生物学的にも証明されたことになります。
一方で、金銭的な問題はないのにあえてモノを所有しないという選択をする人も増えているといわれています。
その理由は何でしょうか。

所有しないことで実感する「解放感」と「不安感」

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映像はNetflix、音楽はAppleでの利用が急増している昨今、物理的にモノのやり取りをする必要がないことは、サービスの提供者にとっても消費者にとっても非常に身軽になったといえます。
心理学者のマッテーオ・ランチーニは、こうした消費スタイルは解放性を感じるとともに、不安を覚える人も多いと語ります。たとえば、スマートフォンをなくしたり必要な時にバッテリーが切れていたら、仕事に支障をきたしたり家族との連絡さえままならない、という脆弱性は否定できません。人間関係さえも、アプリを介して成り立つというある意味不確かな時代を迎えているわけです。
また、以前のように雑誌やDVDを購入するために外に出る必要があった頃と異なり、携帯からそれらの購入が可能になったことで、なにかを所有することに対する責任感は大きく低下している、とランチーニ教授は語ります。

物質の所有よりも実質的な経験を重視

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来日する中国人の興味が、ショッピングよりも体験型のサービスへと移行していることがよくニュースになります。これはなにも、13億人の人口を誇る中国だけの現象ではありません。世界中の人々の興味が、モノの所有から思いがけない経験や可能性へと向きつつあるのです。
たとえば、知名度のあるホテルチェーンに予約するよりも、体験型の宿泊を提供する「Airbnb」が破竹の勢いで急成長していることでもその潮流はあきらかです。以前のように、旅行会社にツアーを組んでもらう安心感よりも、思い立ったその日に常識とは違う旅行ができる探求心を選ぶ人が増えたのです。
数多くのホテルや従業員を抱えるホテルチェーンではなく、物質的には何も持たないサービスを提供するエージェンシーがより成長していることは、こうした世相を如実に映しているといえます。

諸刃の剣である個人主義の拡大

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選択の自由が拡大したことで、個人主義が拡大するのは当然のことです。ランチーニ教授は、この個人主義はある種の自己陶酔でもあると主張します。過去にはなかなか体験できなかったことができるようになったこと。これは、個人個人の視野を広げるという点においては大変なメリットであることに変わりはありません。
しかし同時に、こうした行動がやがて自己中心型の人格形成にもつながりかねない危険を含んでいるといえます。
オンライン上で構築されるさまざまなコミュニティはさまざまなメリットが多い半面、仕事においてもプライベートにおいても真のパートナーとなる人物との人間関係を紡ぎだすことが困難になっているという説もあるのです。

アプリは「手段」にすぎない

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我々「ヒト」は、学名を「ホモサピエンスサピエンス」といいます。音声や身振りで、他者とのコミュニケーションを図れることから、「サピエンス」が二度繰り返されているのです。つまり、人間本来の社会の礎が他者とのコミュニケーションにあることが、人間を人間たらしめた要因であったのです。内向に向かう現代の傾向は、本来の姿から離れた憂慮すべきことなのかもしれません。
コミュケーションのために、スマホやアプリは非常に便利なツールです。しかし、それらはあくまで手段であることを、オトナである我々はよく自覚しておかなくてはいけないでしょう。

最後に

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貧しかった時代から、モノが豊富な時代を経て、我々はいまなにかを所有することに倦んでいるのかもしれません。社会の動きとは、常に前時代の反動であることを考えればこれは当然の動きかもしれません。時代の流れに巻き込まれない知力とは、太古の昔も日進月歩のテクノロジーを誇る現代においても、なにものにも勝るパワーなのです。
 
参照元
参考文献:
井澤 佐知子

井澤 佐知子

イタリア在住十数年、美術と食をこよなく愛す。眼下にローマを見下ろす山の町で、イタリアのニュースを発信中。

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