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「イノベーションを起こすなら、自ら陳腐化させよ」ドラッカーに学ぶ、これからの経営に必要な考え方〈後編〉

「デジタル破壊」と「デジタル革命」の時代を生き残る方法とは?

ドラッカー,経営,山下淳一郎
(画像=THE21オンライン)

時代は既に大きく変わった。もうあとへは戻らない。あらゆる事業が、今の姿のままではやがて陳腐化し、生き残っていくことができなくなる。現在起こっている、その激動の正体とは何か? それを明らかにする方法は7つある。

ピーター・ドラッカーは、「今がチャンスのときである。なぜなら、すべてが流動的だからである」と言っている。どうチャンスを掴み、どうチャンスを活かすか。明日を生き抜くために、具体的なアクションをお伝えする。

〈前編〉より続く

「イノベーション7つの機会」

日本は技術の活用に力を入れているが、技術そのものには、必ずしも価値があるとは限らない。なんらかの形で活用され、社会にメリットをもたらして初めて、価値が生まれる。

日本では、技術からスタートして「モノづくり」を考える傾向が強いのに対して、シリコンバレーでは、「人々は今、何を求めているのか」「何を提供すれば、さらに便利になるのか」「何を提供したら、よりよい生活環境になるのか」という発想で、「コトづくり」を追求する。お客様に喜んでもらえるもの、社会のお役に立つものを創出することが重要なのであって、仮に技術が足りなければ、他社の力を借りればよいと考える。

現状を維持しようという企業が淘汰されていくのは間違いない。我々は、失敗を恐れるより、行動を起こさないで機会を失うことを恐れなければならない。今と同じ考え方で、今と同じことを続けていては、事業はいつか必ず衰退する。かと言って、簡単にいいアイデアが次から次へと出てくるわけではない。

では、どうすればいいのか。「経営の父」と世界から称されたピーター・ドラッカーは、7つの視点で変化を見ていくと、何をすべきが見えてくるという。ドラッカーはそれを「イノベーション7つの機会」と言った。その7つとは次の通りだ。

(1)思ってもみなかったこと
(2)かくあるべきものとの乖離
(3)困っていること
(4)業界の変化
(5)人口構造の変化
(6)ものの考え方の変化
(7)新しい発明

予想外のお客様からの要望がイノベーションを生む

「(1)思ってもみなかったこと」の中には、〈1〉予想外にうまくいったこと、〈2〉うまくいくと思っていたのにうまくいかなかったこと、〈3〉予想外のお客様からの要望、〈4〉予想外の出来事、の4つがある。

ドラッカー,経営,山下淳一郎
(画像=THE21オンライン)

ここでは、「〈3〉予想外のお客様からの要望」についての事例を紹介したい。

このままでは倒産してしまう――。そんな不安を抱えたリフォーム業を営む会社があった。具体的にどんな手を打てばいいのかもわからなかった同社の社長は、わらをも掴む気持ちで、コンサルタントに相談した。そのコンサルタントは、ドラッカーの「イノベーション7つの機会」を知っていた。知っていただけではなく、「イノベーション7つの機会」を実行する助けとなってくれた。

コンサルタントは、過去の記録から、「思ってもみなかったお客様からの声」を調べていった。すると、時折、意味不明な問合せがあることを見つけた。それは、「お宅はパワーショベルを持っているか?」「ブルドーザーを持っているか?」というものだった。

電話を取った営業担当者は、皆、間違い電話だと思い、「どちらにおかけですか?」と尋ねていた。問合せをしたお客様の立場になってみれば、投げかけた質問に対して「どちらにおかけですか?」と返されれば、いい気持ちはしないだろう。「パワーショベルを持っているか?」「ブルドーザーを持っているか?」と問合せからは、何も進展がなかった。

コンサルタントは、「今後、そのような問合せがあったら、『なぜ、パワーショベルが必要なのか?』『ブルドーザーが必要なのか?』、その理由をしっかり聞いてみよう」とアドバイスをした。すると、そこから意外なことがわかった。電話をかけてきた人は、庭の手入れをしたかったのだ。

電話をかけてきたお客様の多くは、一度、造園業者に問合せをして断れていた。ひと口に造園業者と言っても、庭の手入れまで行なう造園業者もあれば、木の手入れに限定している造園業者もある。サービスの範囲は会社によって様々だ。その地域にあった造園業者は木の手入れだけにサービスを絞っていたため、「うちが扱うのは木であって、庭自体の手入れではない」という理由で、庭の手入れは断っていた。困ったお客様は、ホームセンターに行って、シャベルを買ったり、リヤカーを借りたりして、庭の手入れを試みるのだが、自分の力では木も植えられないし、池も作れない。さらに困った。そこでお客様は、「そうだ! リフォーム業者なら、家の修繕の延長線上で、庭の手入れをやってくれるかもしれない」と考え、リフォーム業を営むその会社に問合せしていたのだった。

一度、造園業者に断られたうえに、またリフォーム業者に断られるのは、面白くない。「経験上、パワーショベルやブルドーザーがなければ、庭の手入れはできないことがわかった。では、『パワーショベルやブルドーザーを持っているか?』と、こちらから先に聞こう。『持っていない』という答えなら、どうせお願いできないのだから……」。多くのお客様が、そう思ったのだろう。「断られる前に、庭の手入れができるかできないか、こちらで先に判断しよう」。そんな考えが、「意味不明な問合せ」になっていた。

「パワーショベルを持っているか?」「ブルドーザーを持っているか?」という問合せ、つまり、「庭の手入れをしてほしい」という依頼は、まさに、「〈3〉予想外のお客様からの要望」だ。「予想外のお客様からの要望」から、企業側からは見えていなかった、「庭の手入れ」というニーズが見えた。

そこで、この会社は、すぐさまガーデニング事業部を新設し、庭の手入れをするサービスを開始した。リフォームの仕事が少なくて減って困っていたことが嘘であったかのように、瞬く間に、ガーデニングの依頼で仕事がいっぱいになった。

この会社がガーデニングという新しいサービスで成功したのは、アイデアでもひらめきでもない。生まれ持ったセンスでもなければ、天から奇想天外な発想が降ってきたわけでもない。「予想外のお客様からの要望」をしっかり吸い上げたことによる成功だった。

普段、自社の商品やサービスを伝えることで精一杯になり、お客様の大事な声を聞き逃している企業は、数多いに違いない。